部屋に戻り少し睡眠をとった。



「……やだー、女の子の部屋に勝手に入って寝顔みてたなんて趣味悪いさいてー」
「……」


目を覚ますと、昴がいた。
ぼんやりとした意識が覚醒してきて寝顔を見られたのか、とかいつから居たのかとか考える。普通に考えて恥ずかしい。


「山之内が心配していたから来たんだが…」


呆れ顔の昴は本をパタリと閉じた。床に座って本を読んでいたようで。
起き上がり窓の外をみて、今が夜だと気付く。
寝すぎたな。


「はぁー、もう夜かぁ。寝過ぎたかなぁ」
「昼からずっと寝ていたからな。寝過ぎだろ」
「…へ」


なぜ私が昼から寝ていたと知っているんだ。
その疑問は言わずとも顔に出ていたのか昴は口を開いた。


「俺が部屋に来たときにはもう寝ていたからな」
「…え、いつから部屋にいるの?」
「…4時間前くらいだな」


つまり4時間も部屋に居たのか。

制御できないカウンターのアリスを持つ私には昴のアリスで体調不良を整える事もできない。だからただ4時間もずっと、部屋に居て私が目覚めるのを待っていたのか。


(…暇人め)


そう思いつつも感謝はする。そこまで私も薄情ではない。


「ありがとう」


静音ちゃんにも後でお礼を言わなきゃ。姫さまにも改めて挨拶に行かないといけない。


「もう体調は良いのか」
「大分ね。お腹すいたなー」
「夕食ならまだ食堂にあるだろ」


今日は朝が早かったし体調不良の原因は寝不足だろう。それと精神的なもの。
寝たおかげかすっきりしたし、昴が言った夕食を食べにいこうとベッドから立ち上がった。
私の姿をみて床に座っていた昴も立ち上がる。

ドアに手をかける。が、後ろから体を包まれるように抱きしめられて身動きがとれなくなる。

勿論この部屋には私と昴しか居ないのだから、こんな事が出来るのは昴だけなわけで。


「え、」
「あまり考えるな」


昴の左手が私の左腕をつかむ。
静音ちゃんから聴いたのか、私が寝ている間に見たのか。恐らく後者だろう。静音ちゃんはこんな事をいくら昴であろうと言ったりしない。


部屋に帰ってきて、また、やってしまったのだ。
爪なんかではない。

イライラしたりモヤモヤした時は気を紛らわすために、こうしてきた。間違っているのは知っている。それでももう癖だ。


学園を離れてからはしなくなっていたのに。


「…ごめん」


何がごめんなんだろう。こういう、心ない謝罪なんて何の意味も為さないのに。


「別に謝って欲しいわけじゃない」
「わかってるけど…」


私の左腕を掴んでいた手はいつのまにか体に回され、体を抱きしめる力が強くなる。
首もとに昴の髪や吐息が当たりくすぐったい。

変に意識してきて、心臓が煩くなってくる。抱きしめられているんだ、私。
さっきまでは自分がした自傷行為に反省しそれどころではなかった。しかし一度意識してしまうともう駄目で。

どうしよう。


内心焦り、心臓の音も聞こえているんではないかと顔があつくなってくる。クリスマスの時のようだ。

今回も昔のように何も考えず触れているのだろうか。それとも、


「…すば、」


昴の腕に触れ、とりあえず名前を呼ぼうと口を開くとガチャリとドアノブが捻る音。え、とつい声をもらした。


「昴いるー?」


ドアの目の前に立っていた私と昴は、無神経に女の子の部屋をノックもせずに開けた秀とバチリと目があった。


「……」
「……」
「……はは、邪魔してごめんね?」


最初こそポカンとしていた秀だが、すぐに楽しそうに笑ってドアを閉めた。






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