中等部の時の星階級はスペシャルだった。帰ってきてもそのままらしく、ありがたいようなつまらないような。

あえて文句を言うなら、プリンシパルというか執行部というか、生徒会にもそのまま在籍させられていた事だろう。




高等部寮と中等部寮ではおなじ星階級でも部屋のつくりは違うようで、高等部寮のスペシャル部屋は想像以上に豪華だった。


とりあえずベッド大きすぎ、部屋広すぎ。


無駄に豪華な部屋にソワソワしながら、届いている荷物を整理整頓する。

届いている荷物は中等部の時に置いていった物がほとんどだ。捨てられただろうと思っていた。懐かしい物ばかり。

授業用ノートやペンケース等の学用品から、折り紙やクレヨンなどのずっと昔から大切に保管していた物まで。
アルバムや何度も読み返した本や手紙は、久しぶりに見返すと最早新鮮だった。

病院に持っていったのは少しの衣類くらいだったから。



思い出に浸りながらの作業が終わったのはすっかり辺りも暗くなった頃。ちょっと早いが入浴して眠る事にした。

久しぶりに動き回ったら疲れた。


ーーーーーーーー



ゆったりと広い浴槽に浸かり体を温め、あとは寝るだけ。いや、その前に髪を乾かさないといけない。

広い部屋でドライヤーを探していると、ドンドンと扉を叩く音がした。

教師だろうか。もしそうだったら寝巻きだから会いたくない。でも、なんとなくそうじゃない気がした。
なんとなくの期待を胸に、部屋の扉を開ける。


「やっぱり、静音ちゃん!」


開けた扉の先に居たのは、あの静音ちゃんだった。

久しぶり、と以前と何も変わらぬ口調で放った静音ちゃん。これは夢で無いのか、幻ではないのかと自分の頭を回転させる。


「静音ちゃん……!」
「えぇ。久しぶり」
「静音ちゃん…!」
「……邪魔するわよ」


感動で何も言えない私が面倒くさくなったのか、扉を開けたまま立ちすくむ私の隣をするりと抜けて部屋に入ってきた。

それにしても、まさかあの静音ちゃんがわざわざ私に会いにきてくれるとは。


「本当久しぶりね」


部屋の中をぐるりと見渡した静音ちゃんは、片付けられなかった段ボールの山を見ながらそう言った。

「うん。久しぶり!静音ちゃんがわざわざ会いに来てくれるなんて嬉しいー!感激!」
「感謝の気持ちは言葉だけでなくて結構よ?」
「照れちゃってー」


私はソファーの上にぼんぼんと放っておいた服なんかを纏めてベッドに投げた。

静音ちゃんとは親友だ。と、思う。

簡単に言うと、中等部の頃入学してきた静音ちゃんに私が一方的に惚れて友達になってもらった。
あれは確かに「なってもらった」という表現が正しいだろう。今では一方的な気持ちではないと思っているが。

少し冷たいのは不器用なだけで、それもまたクールでカッコイイのだ。


「担任に帰ってきたって教えてもらったわ。
帰ってくる時は教えてって言ったじゃない」
「ごめんねぇ。急だったから」


静音ちゃんは先程片付けられたソファーに座った。私もまだ座っていないソファー。でも、静音ちゃんだから許す。

私は静音ちゃんの隣に座った。
ソファーは校長室程ではないがふかふかとしている。気持ちいいなあ。


「そうそう」


静音ちゃんが言った。


「あなた、もうすぐ始まる文化祭の開会式に出なきゃなのよ」
「え」
「出るっていっても何も分からないでしょう。座ってるだけで大丈夫だから」


楽しい話題が出てくるかと思ったが、そうでは無かった。


「ええー!やだやだー!緊張しちゃうよー」
「馬鹿言わないの」


それを伝えにここに来たのよ。なんて言われる始末。

まあ、これは静音ちゃんのツンデレのツンの部分なのだろう。本当は久しぶりの親友との再会に喜んでいるはず。
わざわざ会いに来たなんて思われたくなかった為の既成事実なんだろう。うんうん。


「まったく、静音ちゃんったら可愛いんだから!」
「は?何よいきなり」


眼鏡の奥の綺麗な瞳がじっとりとこちらを見つめる。
そんなの気にせず隣の静音ちゃんに更に近付き(いや、詰め寄り)大好き!と伝えた。


「まさか、話題反らしじゃないでしょうね」
「違うよー愛の告白だよ!」
「…………」
「それにしても開会式かー。めんどくさいなあ」


そうぼやくと静音ちゃんは大きな溜め息を吐いた。


「我慢しなさい、まがりなりにもプリンシパルなんだから。この部屋の対価よ、対価」
「ずっと座ってたら腰痛くなんだよー」
「そんなの知ったこっちゃないわ」


ツンと前を向く静音ちゃんは相変わらず美人で、最後に見たときより随分と大人っぽくなっていて時の流れを感じた。



未だに学園に帰ってきたという実感は湧いていなかった。
鳴海先生に会ったって野田先生に会ったって。行平校長と話をしても。

学園を離れていた時間は大きな物だったから。

高等部の制服を着せられ、高等部の寮に入れられ。違和感だらけの中でたった一人、静音ちゃんに会っただけで学園に帰ってきたという実感と嬉しさが込み上げてきた。

そうだ、ここは大切な人が居る大切な場所なんだった。






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