一言で言うなら最悪だ。
花姫は性格悪いし花姫は性格悪いし花姫は性格悪いし。なにより体調が悪い。
いつもこういう時に都合悪く体調が崩れるのだ。去年こそ治療を終えてすぐだったから文化祭もクリスマスも問題なく過ごせたが、昔は違った。
花姫皆が蜜柑ちゃんをいじめながら百人一首をしている最中、遠くからその様子をみていた。静音ちゃんは姫さまの隣だ。私はとても動く気にはなれず最初に居た場所にずっと座っていた。
(柚香ちゃんの…)
体調が悪いと気も沈んできて余計な事を考えてしまう。
駄目だと頭を振っても簡単に思考は変わってくれない。
昔の思い出したくもない思い出。目に焼き付いて離れない先生の最期の姿。
苦しい。
締め付けがキツいのだろうか。そうじゃない事はわかっているが、何か他に理由をつけなければ今大人しく座っている事が出来なくなりそうだ。
苦しい。
息がどんどん浅くなっていき、頭の中を埋め尽くす昔の記憶。
「春希」
そっと私の右手を静音ちゃんの手が包んだ。
ハッと意識が戻り、左腕にキツく食い込んでいた右手を離す。爪の痕がくっきり残っており血が滲んでいた。
―――久しぶりにやってしまった。
ばつの悪そうな顔で静音ちゃんを見ると、冷静な顔をしていた。
「春希。死にそうよ」
そう声をかけられ、ニコリといつもの笑みを浮かべた。
「うん。だけど大丈夫だよ」
へらへら笑いながら立ち上がろうとするが、ストップをかけられた。「もう帰りなさいよ」と。
何年か学園を留守にしてきた私が、帰ってきて最初の花園会をサボると姫さまのご機嫌が悪くなるのは目に見える。
それはあまり良い立場で学園に在籍していない私にとってはかなりの痛手になる。中等部校長や高等部校長に何かがあった時に守ってもらう必要があるからだ。
それを分かってくれている静音ちゃんに帰りなさいと言わせてしまった。
私が昨日今日言っていた無神経な事。
こうやって静音ちゃんが私を気遣ってくれているのを知った上で私は行きたくない行きたくないと言っていたのだ。
「…ありがとう」
誰かから守られていると知り、その上で胡座をかく。とれもしない責任をとり、身代わりになろうとして逆に回りを傷つける。
それはとても簡単で楽な事。そうはなりたくないと思った道しか進めない。
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