いつもの何倍も早起き。
今日は昨日の何倍も豪華な着物を着る。着付けに化粧に姫さまへの挨拶に、とにかくやる事が沢山だ。
部屋のカーテンを開け、まだ暗い空を見る。次に自分の左腕に視線を移した。
もうほとんど消えた傷。よく見るとわかるが、パッと見ただけでは気づけない。
背筋がぞわぞわ。花名とはいつまでたっても慣れないものだ。
「白薔薇の君ですって。久しぶりに呼ばれたけどやっぱり鳥肌もんだよね」
「口を慎みなさいよ馬鹿」
「慎んでまーす」
姫さまに挨拶し、静音ちゃんと花姫候補の蛍ちゃん達を迎えに行く。相変わらず長い廊下だ。
「ていうかさぁ、姫さまよく男の子入るの許したよね」
「そうね。何もなければ良いんだけど」
静音ちゃんがため息を吐いた。
なんでも、くっついて離れなくなるというトラブルがあったらしく特別に男の子も参加という事になった。
クリスマスの時に出会った棗くんと、そのお友達の何とかくんが一緒にくるらしい。
それに加え抽選玉の当たった蜜柑ちゃんも。
とても、良い予感はしない。
「何もないなんてこの学園じゃ有り得ないよ」
廊下に備えられている大きな窓の前に立ち、外を見る。蛍ちゃん達はまだ来ていないようだ。
「学園って広いんだね」
ポツリ呟いた。
ずっと変わらないこの広さ。
帰る家もなく幼少期から過ごしたここは、一度学園から離れた私をまた迎え入れてくれた。
誰が何と言おうと私の家で、唯一の帰る場所なんだろう。
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