彼女の瞳の中に憎悪が燃えていた。
自分よりずっと幼い、まだ字も上手く書けないような女の子相手に恐怖を感じたのは初めてだった。

人とちょっと違う可哀想な女の子。
今もまだ苦しみ悲しみ、誰よりも強くて弱い彼女。


意志を継ぐ事が出来るだろうか。












「あけましておめでとうー」
「あけましておめでとう。相変わらず着物似合わないよね」
「知ってますー」


新年。
着物を着て寮の談話室でまったりと過ごす。とても良い日だ。

昴と秀に静音ちゃん。そして私。テーブルを囲んでおせちを食べる。とても良い日だ。


「今年も良い一年になりますように」


そう言っていただきますと箸を手に取る。
隣に座っていた静音ちゃんが「あら」と眉を上げた。


「去年は良い一年だったの?」
「まぁね」


全てが上手くいったわけではないけれど、悪い1年ではなかった。
何より学園に帰ってくる事が出来たし。


「それより春希。あなた明日の花園会…」
「あぁ、早速私の良い1年にしよう計画を阻む催し物がぁ」


わざとらしくうなだれる。

花園会。
中等部の時にメンバーに選ばれたが良い事はない。疲れる。ダルい。着物がキツい。
唯一あった良い事とは静音ちゃんと仲良くなれた事だ。それは本当に感謝している。その件に関しては花園会様様だ。


「我慢しなさいよ。今年は今井蛍さんもメンバーに選ばれたみたいよ」


静音ちゃんの報告に、真剣にカニミソを食べていた昴がチラリとこちらを見た。シスコンハマグリ野郎め。
可愛いげは無かったなんて言いながらしっかり興味はあるようだ。


「え?でも蛍ちゃん初等部でしょ?」


初等部からメンバーに選ばれるなんて異例だ。いくら蛍ちゃんが眉目秀麗だといっても、初等部で選ばれるものなのだろうか。
まぁ姫さまの事だからあり得なくはない話しなのかもしれないが。


「姫さまは今井さんにずっと興味を示していたわ」
「ふーん。初等部でもメンバーになれるんだ」


先程までカニミソを食べながらこちらを見ていた昴と秀が何か小難しそうな話をしている。この2人はいつもこんな話をしているのかと思いながら、ぼんやりしていると静音ちゃんに「で、あなた来るのよね?」と言われた。


「…行かなきゃなんでしょ?」
「姫さまの機嫌を損ねたらめんどく…いえ、たった1日くらい我慢なさいよ」
「えー」


仕方ない。
そう、これは仕方ない事なんだ。


「あぁ、明日は何かよくない事が起きそうだ」

私の思案を更に暗くするように秀がぼそりと呟いた。






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