こっそり抜けた特力の教室。掃除を手伝わないのは申し訳ないが、最初に遊びにきたと言ったし、私に期待はしていないだろう。
そう言い訳をして寮に向かう。


不意に野田先生の言葉を思い出す。


「…相変わらずかぁ」


学園に来た当初の事は覚えていない。まだ三歳だったし。
現在学園に居る人の中では野田先生が一番付き合いが長い親しい人になる。

その野田先生が言うなら、私は変わっていないのかもしれない。複雑な気持ち。

変わりたい。もっと強く。
過去と決別し、強い自分になるのは容易くはないだろう。
周りに流され、嘘で塗り固めここまできた。舵を無くした舟のようだ。行きつく場所がわからない、止まる事も出来ない。ただ流れに任せ、いつか無事に皆の元にたどり着けますようにと願うだけ。


(ばかみたい)


そんなのは無理な話だ。舵を無くした私を見て、馬鹿らしく惨めで哀れだと皆笑っているのだ。そんな私が、幸せに、平和になんて



「おい、掃除は?」


ビクリと肩が震えた。完全に自分の世界に入っていたが、後ろから声をかけられ思考はストップした。振り返ると昴。


「……昴こそ」
「もう終わった」


潜在系なんて掃除に役立つアリスの子が沢山居るだろう。特力はまだガヤガヤと掃除をしているのか。


「そっか。私は…まぁ、ね」
「サボりか」
「いやぁ悪い言葉だね」


確かに言ってしまえばサボりだ。


「まぁ私別に特力じゃないし」
「……」


曖昧なまま学園から出て、曖昧なまま学園に戻ってきた。
特力と危力系を行き来していて、最後に在籍していたのは危力系。表向きは特力だったが、正確には危力系の生徒だった。
学園に戻ってきてからは特に何も言われないので特力なのかなと思っているが、どうなんだろう。


「またそんな事を」


呆れたように溜め息を吐かれた。


「なんだよー、ハマグリ野郎め」
「は、ハマグリ…?」


その溜め息に腹が立ち、つい罵声が口から出る。
なにがなんだという顔の昴を置いて自分の部屋に向かった。






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