生徒会室の掃除は30分もかからない内に終わり各自の能力別クラスに向かった。
あの教室が嫌いだから行きたくない!と大掃除の時まで言うのは申し訳なく、1人特力の教室に向かった。


「春希ちゃん手伝いにきたの?」
「遊びに」


明良にそう答えると笑われた。中に入ると真っ直ぐ野田先生の元に向かう。


「散らかってますけど、座ってくださいよ。寒かったでしょう。お茶いれますよ」


野田先生に案内されるままソファーに座る。何しにきたと言われそうだが、さっきも言ったように遊びにきたのだ。


「…賑やかだね」
「チビたちがな」


明良はそれだけ言ってチビもとい初等部中等部の生徒の元に行った。一緒に騒ぐ明良もチビの仲間になるのじゃないか。


「どうぞ」


野田先生が持ってきた緑茶が入った湯飲み。きっと今は特力の生徒なのに客人のような扱いをされて笑ってしまう。


「って岬先生いつからそこに」
「…西有がくる前から」


お茶を啜ると隣に座っていた岬先生に気付いた。相変わらず影が薄い。
なぜ居るのか聞いたら今井を迎えにきたんだが、と溜め息混じりに言った。
今井蛍ちゃんか。岬先生が迎えにきたという事は技術系なのだろう。


「もう年が開けますね。いろいろあった1年でした」


しみじみと緑茶を飲む野田先生。岬先生も頷いて緑茶を飲む。
クラシック音楽を聴いてるような気分だ。気が静まる。


「わーナル先生と岬先生の若い頃の写真があるーっ」


人が穏やかな気分の時に、騒がしい教室が一層騒がしくなった。
岬先生はお茶を吹き出し野田先生に被害が被る。そのままバタバタと輪の中に入っていった。


「はは…相変わらずだね岬先生」
「春希さんも」


そこまで岬先生と面識はないが、昔から変わらないいじられキャラに微笑んでいると野田先生が言った。


「春希さんも。相変わらずです」


もう一度同じ内容を繰り返す。


「…えっと、それは私が成長していないという事ですかね」
「いえいえ」


いつもの優しそうな顔で手を振る。野田先生も変わらない。


「私が学生だった時から、春希さんが学園に来たときから知っていますけど変わっていません。
芯の強い優しい子です」


野田先生が緑茶を口に運ぶ。


「最初は幼いながら感情を抑えている子で心配していましたよ」
「ははは、そうだったの?」


私が学園にきたのは三歳。野田先生とはもう十五年の付き合いだ。


「今井くんや櫻野くんが入学してきてからは、今よりずっと明るくなりましたね。柚香さんも嬉しそうに特力の教室で話していました」
「柚香ちゃんが?」


出てくると思わなかった名前。思わず顔の筋肉が固まる。
野田先生が今まで私の前でその名前を出す事は無かった。気を使ってくれていたのか、話をする必要性を感じられなかったのか。


「はい。あなたの事は妹か自分の子のように可愛がっていましたから、何かと心配していたんですよ」


息が詰まった。自分が知らない、知ろうともしなかった話を聞いている。
頭を金槌で打たれたようなショックを感じた。
ゆっくり頭が下がっていくのが自分でもわかっる。視線に入った膝をジッと見ながらゆっくり息を吐き出した。


「春希さんはいつも笑顔でした。真面目な性格ではありませんが、皆に好かれていますよ。
あなたは強い人です。今も昔も」
「…真面目な性格ですよー」


笑いながらこたえてみせた。
いつからこうなったのだろう。否、今更そんな事考えなくとも分かっている。

相変わらず優しく微笑む野田先生は緑茶を口に運んだ。私も飲む。暖かい。


「これ春希先輩やん!」


向こうから私の名前が聞こえた。自分が居ない所でされる自分の話ほど気持ちが悪いものはない。


「何だろ」
「アルバムを見てるみたいですよ。私たちも思い出に浸りにいきましょう」


ソファーから立ち上がった野田先生が手を差し伸べてきた。
戸惑ったが、その手をとれば懐かしい暖かさに再び涙がこぼれそうになる。






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