落ちた仮面。見知った二つの顔。片方は仮面を着けたままだけれど。
駆け寄り、声をかけられずには居られなかった。


「お久しぶりです」


意識を蜜柑ちゃんから反らさなければ。
私に出来る唯一の事。守りたいし繰り返したくない。
せめてこうして償いだけでもさせて欲しい。


「西有春希です」


蜜柑ちゃんの前に立ち、初等部の校長先生を見下げた。
この人はこんなにも小さかったっけ。


「ああ、随分だね」
「……えっと、ごめんなさい。挨拶には行きたかったんですけど、授業についていくのが大変でなかなか時間がとれなくて」


動悸が治まらない。久しぶりに話したせいだろうか。


「いや、良いんだよ。久しぶりに顔を見れたから安心した」


不敵に口元を歪ませる校長先生は何を考えているか分からない。
先生は落ちている仮面を拾い、蜜柑ちゃんに手渡した。

そしてわざわざ自分の仮面をズラし、その顔を見せる。
幼い顔。不釣り合いなオーラに蜜柑ちゃんがたじろんだのが、顔を見なくても伝わってくる。


「気を付けて。大切な何かを失わないように……」


それだけ言い残し、先生は私達に背を向けた。

場内のBGMが耳に入ってこない。
先程までと変わらず生演奏が続いているはずなのに、ここだけが異空間のようだ。


「……蜜柑ちゃん、大丈夫?」


独自の威圧感に圧倒され、呆然としている蜜柑ちゃんに触れた。ハッとしたようにこちらを見つめる目は不安に満ちている。

その目を見るとどうしようもなく申し訳ない気持ちで一杯になった。自分は悪くないんだから、と自分に言い聞かせる。


目線が同じになるようにしゃがみ、手に持っていた仮面を貰った。


「変わった人だったね」
「うん……あの人、なんやったんやろ。初等部の校長先生に似とったけど……」


蜜柑ちゃんは校長先生が去っていった方に顔を向ける。
折角のクリスマスなのになあ。


「大丈夫だよ」


小さい手をとり握る。昔私がされたように。
暖かい手だ。小さい。

自分の不安も消えないけれど、目の前の蜜柑ちゃんの不安も消えない。
私のその場しのぎの言葉と頼りない手なんかじゃ、蜜柑ちゃんのこの不安が消える訳がない。
まず私と蜜柑ちゃんにはそこまでの信頼関係も無いから。


私が不安で一杯になった時、皆は優しく手をとってくれた。優しい言葉をかけてくれた。暖かかった。
あれは、こんなにも簡単な気持ちでの行動じゃ無かったんだな。


「あ、あなたは蛍の……」


背後に誰かが立ったのが分かった。蜜柑ちゃんの視線が私の背後に移る。
私もそれを追うように振り返った。


「悪いが、こいつを借りても良いか?」


しゃがむのを止めて立ち上がった。何でここに居るんだろう。いや、学園の生徒ほぼ全員参加のクリスマスパーティーに居るのは何らおかしな事ではないのだけれど。


「あ、はい。大丈夫、です」
「悪いな」


それだけ言ってスタスタと立ち去る昴。


「あ、ちょ……。なんかごめんね、蜜柑ちゃん」
「ううんええんよ。春希先輩がおってくれてうち良かった」


早くついていかないと見失ってしまう。
さっきまであんな事があったから居なくなるのは不安だけれど、流石に昴を無視するのも悪い。


「春希先輩は大丈夫?」
「……うん。ごめんね」


こんな、初等部の女の子に心配されるだなんて。
私は何をしているのだろう。






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