受かれた会場内にカラスが飛び交う。これも幻覚か。
舞い散る羽を掴んでも、スルリと手から消えていった。


「……あー」


宙を掴む手は虚しく、行き場を失う。
これから自分もどこへ向かおうか。


「春希ちゃん」


ぼんやりと立ち尽くす私の名前を呼ぶ声。聞き慣れた声だ。
振り返ると鳴海先生が居た。


「先生」
「メリークリスマース」


相変わらずのおどけた態度にふざけた衣装。
けれど、何かが違う。何がどう違うのか、わからないけれど。


「サンタさーんプレゼントちょーだい!」
「僕で良ければ喜んで差し上げるよ☆」
「うーん、消耗品より形に残るものが良いなあ」
「え、僕は消耗品なの?」


冗談ですよと笑い合う。
場内のBGMが変わり、皆が仮面をつけて踊り出していた。
技術系のアリスによる演奏だ。

ゆっくりとした音楽。楽しそうにはしゃぐ生徒。
先程の幻覚のカラスのせいか、この浮かない心は。


「春希ちゃんとはもう今年は会わないかなと思って。よいお年をってね、言いにきたんだ」
「えー早いよー寂しくなっちゃう」


今年ももう数日残すのみ。
鳴海先生は初等部の担任で潜在系の教諭だし、確かに今年はもう会わないかもしれない。

考えれば、そう接点のない私にここまで親切にしてくれるんだからありがたい。
それが、不純な動機だとしても。否、今はありがたく素直に受け取っておこう。

そう思っていた時に、謎の違和感の正体に気付いた。


右手だ。
袖口のファーでよく見えないけれど、痣がある。見覚えのある痣。


「……先生も、よいお年を」
「ありがとうー。残りのクリスマスパーティー楽しんでね」


先生が左手を挙げて私の前から去っていく。すぐにいろんな生徒から絡まれている。相変わらず人気者だな、鳴海先生。


あの痣はどうしたのだろう。範囲は狭かった。
心当たりがある。当たらないで欲しい。


「……鳴海先生」


学園に帰ってきてからは毎日が早かった。以前まで私の周りを囲んでいた不安要素が0になり、平凡な学園生活を送れている。

きっとこれはいつまでも持つ時間じゃないのだろう。その場しのぎの平和だ。
誰がいつ痺れを切らすかわからない。それはあの人かもしれないし、私かもしれない。
来年はどうなるのだろうか。

どんな一年が待っているのか。また、皆でこうして年の瀬を楽しめたら良いのに。






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