私のせいで先生は死んだのだ。罪悪感で私も死にそうだった。何年もたった今でもそう。
忘れるという事は、知らないという事は、聞かないという事は罪なのだろうか。
無くなってしまえばどれだけ楽か。
「さむ…」
冬が来た。
風の冷たさに、マフラーに顔を引っ込める。
寮から校舎までの無駄に長い道のりをいつもの倍はかけて歩く。寒いと体も縮こまるせいか、はたまた地面が凍るせいか転けやすい。
流石にこの年齢で転けるというの恥ずかしい。
足腰が弱い私に冬の通学路は危険だ。
(だから私に冬の間は送り迎えを…)
「春希ちゃんおはよ」
「おー、明良おはよー」
こんな早く、つまり皆が登校してる時間から学校に向かってるなんて珍しいねと明良は言うが、すぐに私の歩くスピードの遅さに苦笑いを浮かべていた。
「平気だったの?」
「へ?」
私と同じようにマフラーで顔の半分を隠した明良がきょとんと間抜けな顔をする。
しかし直ぐに何の事か察したらしい。
「……あぁ」
「詳しくは知らないけどね」
「あ、そうなの?櫻野か今井辺りから聞いたと思ってた」
「聞かないよ。関係ないし」
そう。聞かない。
聞かされたけれど。それもあまり大した情報ではないし、聞いてない内に入るだろう。
蜜柑ちゃんや翼、もちろん明良も何事もなかったかのように学園生活を送っているのをみて、きっと悪い方にはいかなかったのだろう。
私が首を突っ込む事ではない。それによって面倒臭くなる場合もあるし。
まあ、こうして明良とその話をしてるという事で、私の気持ちとは矛盾があるのだけど。
「あ、でも責任は全部俺がとるとか言ったらしいじゃーん」
秀があの日、月の綺麗な夜にそこだけを面白そうにそう話してくれた。私としては全然面白くないんだけど。それを知った上でのあのテンションだったんだろう。
「責任なんてさぁ、簡単にとれるもんじゃないんだよ」
私如きが説教垂れて、バツの悪そうな顔をしている明良には申し訳ないなとは思うし、私なんかより冷静で客観視出来るのでいらないお世話だと思うが。
ついつい口が動いていた。
「誰も明良の代わりにはなれないんだから」
「……だな」
腹を割りはしない。心から信頼できるわけでもない。
それでもやっぱり、と思ってしまう。
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