何時間か、散歩というか徘徊をしていた。寮から出て夜風にあたる。もう冬が近いようで想像以上に風は冷たい。
それでも寮に戻る気はせずうろうろしていると秀に会った。会えた、という方が正しいのだけど。
「こんな夜中に1人うろついてるなんて感心しないなぁ」
きっと秀も同じ考えだろう。
仲良しこよしの昴と秀だが、今は秀しか居ない。昴は蛍ちゃんの元かな。
「あららー総代表に見つかっちゃったー」
暗黙の了解。
昔はあんなに仲が良かったのになんて過去を懐かしんでしまう。
大人になったからだろうか。それなら、子供のままで良かった。
無意味な考えだ。やめよう。
「危ないよ、こんな夜中に1人なんて」
風に吹かれて秀の髪がなびく。月が眩しくてお互いの姿がハッキリと見える。
あの時と似ている。あの時は満月だったか。
隠れたかったんだろう。暗闇の中、ひっそりと沈んでしまいたかった。けれど、いつも私を探しだして助けてくれる人が居る。
隠れようと隠れようと月明かりに照らされて、手を引かれた。
いつだったかも覚えていない。
「今は秀が居るから大丈夫だよ」
あの時と違うのは私の心境と、側に居る人物。
「飛田くんのアリスは戻ったよ」
ついに秀がそう言った。
「今井さん……昴の妹も無事だし、特力の後輩達も帰ってきた」
「言わないで良いのに」
「聞かないんだね、春希は」
静かに秀が笑った。私もつられて笑う。
「聞きたくなかったから」
「そうみたいだけど、僕は知ってほしかったから。だから言っちゃった」
まるで今は夢の中のようだ。もしかしたら、そうなのだろうか。
全て嘘なんかではなくて夢。
目が覚めたらずっと昔の日常に戻れる。それだったらどんなに良いか。
足が鉛のようだ。動けない。逃げるつもりではないが。
口も動かない。きっと私は今情けない顔をしているんだろうな。
口角を無理やり上げているが、それが余計に情けなくなっているだろう。
「じゃあ、寮に帰ろうか」
秀が優しく手を引いてくれた。重たい足を動かす。
なんだ、動くじゃないか。だって本当は鉛なんか無いのだから、全ては私の意識次第なのだ。
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