ゆっくり沈んでいく。
ここから見える景色はとても綺麗だ。








ああ、帰ってきた。

そう勘づいた瞬間に自分の中から何かが消えていくのが分かった。
何度目かのこの感覚。


「…無くなっちゃったぁ」


静音ちゃんの部屋。我が物顔でベッドに寝転がり、右手を開いて閉じる動作を繰り返す。

無くなっちゃった。アリス。


「なにが無くなったの?」
「んー、アリスというかアリスストーンというか」


ベッドに腰掛けていた静音ちゃんは読んでいた本を閉じた。
横目で本の表紙をみると洋書だった。
有り得ないまあなどんな頭のつくりをしているんだ。


「昔入れたっていうアリスストーン?」
「うん」


昔入れたアリスストーン。

増幅のアリスを無くした時、昴や秀に鳴海先生、いろんな人のアリスストーンを体内に取り込んだ。

それはかなり無茶な行為だったため著しく体調を崩し、今の私がここまで体調が悪いのはその行為のせいだ。断言できる。

自業自得なのだが。


「秀のアリス。便利だったのに」


また貰おうかな。くれないだろうけれど。


「でもまだ体内に残ってるアリスストーンはあるんでしょ?」
「あるけどー」


結構使えるアリスだったので残念。
しかし十一年持ったのだから、そろそろ潮時だったのだろう。

ベッドから立ち上がり背伸びをした。少し立ちくらみがする。


「じゃ、お部屋に帰ろうかなー」
「あら、てっきり泊まっていくと思ったわ」
「そのつもりだったけど気が変わっちゃった」


部屋で一人になりたい気分。

くつろぐだけくつろいでごめんなさいと静音ちゃんに別れを告げて廊下を歩く。


なんだか、真っ直ぐ部屋に帰る気はしなくて寄り道する事にした。

これはきっと、秀のアリスストーンの最後の最後の力だろう。







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