開けてもらった扉から車に乗り込む。広い車内、ふかふかの座席。さらにドアまで閉めてくれるとは。まるでVIP待遇だな。
そんな事を考えていると隣に座っている人物が口を開いた。


「おっかえりー春希ちゃん」


にこにこと、花でも飛んでいそうな笑顔。
鳴海先生につられてこちらまで笑顔になってしまう。

シンプルな白いシャツに黒のパンツ。
金髪碧眼で中性的な鳴海先生によく似合う格好だが、派手な服装に定評のある鳴海先生がどのような格好でくるか密かに楽しみにしていた。だから今日のカジュアルな年相応の格好に、心の中で肩を落とす。


―――もっとフリフリでピンクのスーツとか着てきたら面白かったのに。


流石にTPOをわきまえているのか。
しかし会って早々、つまらないと態度に出すのも流石に失礼だろう。私も花を飛ばす勢いの笑顔を作り、鳴海先生に返事をした。


「ただいまぁー」
「おかえり。皆君の帰りを待ってたんだよ」
「えー、嘘だー」


しかし、まさか迎えが鳴海先生とは。昨日聞いたときは驚いた。

鳴海先生は初等部の教員で体質系の先生。
しかし私は初等部生でもなければ体質系でもない。現在、高等部生の私は鳴海先生とは何の関わりもない。

あの当時、顔見知りでそれなりに話す教師ではあったが。それだけだ。

親しい教師と生徒いう間柄だけでは、アリス学園外に居た私を迎えに来る理由にはならないのではないか。

学園へ帰るのに同行するのが鳴海先生だと不満があるわけではないけれど。


「体調悪い時はちゃーんと言うんだよ」
「はいはーい。おーけーおーけー」


無駄に長く、無駄に高級な車。変に緊張せず乗れているのは、まぁこの鳴海先生のおかげだろうが。

やっぱり気になる。


「ていうかさ、何で迎えが鳴海先生なの?」
「うーん、不満?」

オーバーに眉尻を下げ分かりやすいくらいのリアクションをとる鳴海先生にあえて突っ込まず、で?と聞き返す。


「昨日急に決まったんだよねー」


可愛い子ぶった鳴海先生は人差し指を自分の顎に近づけ、小首を傾げながら話しを続けた。


「春希ちゃんは高等部生だけど、高等部に上がってからは学校行ってないから、高等部の担任の先生に行かせるのも気まずそうじゃん?」
「うーん、鳴海先生と一緒の方が厳しいかも」


私が冗談を言うと、鳴海先生はシクシクと泣くフリをした。
今度はそれに付き合い慰めるフリをする。


「ーーーで、中等部の時の担任だった野田先生は例のごとく学園に居ないわけで。
となると春希ちゃんと顔見知りの鳴海先生が行ってきてーって頼まれちゃって。
簡単に言うとね」
「なるほどなるほど」
「久しぶりに会える学園の先生が僕だなんて、春希ちゃんラッキー!」
「あははー……わーい……」


相変わらずの鳴海節だ。
こうして車内に並んで話をしているといろいろ思い出す。

そんな私の思考をかき乱すように、鳴海先生はいろいろな話をしてくれた。

主に鳴海先生が受け持つ初等部B組と体質系クラスの話。

話をしている間ずいぶんと長く車に揺られていたようで、そろそろ着く頃かなと鳴海先生と話題に出した時、丁度車は学園の前に着いた。

相変わらずの、どっしりと構えた高い門。

またまた自動開閉の扉の車から降り、その門を見上げる。
首が痛くなりそうだ。


普通の生徒とは違い、何度も何度も、何度もこの門をくぐってきたな。あの時の私はどんな気持ちだったっけ。
これからはどうなっていくんだろう。

そういえば、あの時も鳴海先生が一緒に居たな。


「…ただいま、か」
「おかえり」


独り言のつもりで漏らした呟きに、鳴海先生は返事をしてくれた。
目線を門から鳴海先生に移動させる。

目が合うとにっこり笑った鳴海先生が再び、だがさっきよりは明るい声で「おかえり」と言ってくれた。

私はそれに笑顔を返した。






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