なんだか気分が悪い。
明良が朝から変な話題を吹っ掛けてくるからだな。
「また病院?」
「うん」
体調悪いの?
秀が若干顔をしかめながら聞いてきた。美しい顔が台無しだなぁなんて思いながら大丈夫だよと答える。
まだ授業は残っているが、病院に向かうべく荷物を整理して教室を出ていった。
とぼとぼと校舎を後にして、病院行きのバスが出る停留所まで向かっていると、秀が後を追ってきたのだ。
授業は?と聞くと、病人をバス停まで見送る優しい生徒のフリをしたサボりだと答えた。
「殿内が何かバツの悪そうな顔をしてたよ」
「あいつはいつもそんな顔だよ」
「春希もね」
「…………ちょっと待ってどういう意味?」
「自分で考えなよ」
昨日、生徒会室でどんな事があったのだろう。
気になるけれど聞かないと決めたんだ。
今回の事は何も聞かない。知らないで居よう。
「ねえ、秀は石焼き芋って知ってる?」
「は?」
秀はそのアリスのせいか、それとも本人の性格か。どちらかは分からないけれど、きっと私の本心に気付いている。誰よりも、気付いているはず。
「トラックの後ろでね芋が焼かれてるの。おじさんはそのトラックを運転しながらご町内で芋を売って廻るんだ よ」
「……へえ」
秀は芋売りの話題にあまり食いついてくれなかった。
苦肉の話題反らし作戦、秀一バージョンだというのに。
「ねえねえ秀と昴って普段どんな会話してんの?」
「別に」
「昨日のドラマの話とか?ていうかドラマ見る?」
「別に」
「じゃあやっぱり勉強とか学園の話?生徒会忙しいみたいだもんねー」
「べつにー」
「……秀って殴ってもいいヤツだったっけ?」
「殴れるもんならどーぞ」
ムカついたから秀の肩に触れるだけのようなチョップを入れた。
痒いなー、なんて秀は鼻で笑い言う。
「もー秀は私と真面目に会話してくれないから嫌い」
「嫌いだなんて寂しいなあ」
「じゃあ好き」
「知ってる」
「…………サムいね」
「うん。バス停ついたね」
くだらない話をぐだぐだとしているとバス停に着いてしまった。
病院に行っても帰ってくるのが面倒くさい。ただの早退で、寮に帰れば良かったかもしれない。
でも、秀と話せたから良しとしよう。
「春希はもっと素直になっていいと思うよ」
さっきまでと変わらない声色と顔で秀は言った。
「……私のどこがひねくれてるって?」
「サムい、なんて言う所かな」
秀の顔はやっぱり綺麗だ。何だかとても眩しく感じる。
秀もまた、優しく私に手を差し伸べてくれる人物の一人だ。だからきっとこんなに眩しいんだろう。
秀がわざと、私からの問いの答えを外してくれた事。気付いたって知っているんだろうな。
「昴」
診察ついでに、妹を看病しているらしい昴に会いに行く。
治療中の昴をみて役に立つアリスは良いなぁなんてしみじみ思う。
「春希?なんで」
「愚問ですよ昴さん」
予告もなしに現れた私に驚いたようだ。
昴の隣にあった椅子に腰掛ける。
昴の妹、蛍ちゃんは眠っている。ただ眠っているだけのようだが、彼女の周りのあらゆる器械は彼女が今置かれている状況を物語っていた。
可哀想に。
「昴に似てない事もない」
「だから、似てない」
「小さい時の昴に似てるよ。美少女顔だったからね」
「それは秀だろ」
眠っている蛍ちゃんを見つめる。寝顔からも伝わる彼女の整った顔。どことなく昴に似ているのは、昴と蛍ちゃんが家族だからだ。
「良かったね」
「?」
こっちら秀とは違って勘が鋭くない。いや、十分に鋭い方だけれど比較対照として秀が居るからそう思うんだろう。
「何がだ?」
「昴が癒しのアリスで良かったね、って」
「ああ。まあな」
ふと、秀に言われた言葉を思い出した。
きっと私はまだまだ素直になんかなれないだろう。
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