「あれ、春希さんじゃん」


特力の扉を開けると、にゅっと視界に翼が現れた。


あぁ、やっぱり。


翼の顔をみて言葉につまった。やっぱり。
私がここで顔をしかめて黙り混むと変に思われるだろう。何とか口を開き「暇だったから来ちゃった」と言う。


「ひっさしぶりじゃん。春希さんいっつも能力別クラスさぼるからなー」


それにしても相変わらず賑やかな教室だ。ぐるりと教室内を見渡すと野田先生を見つける。


「のだっち!!」


普段滅多に呼ばないあだ名で野田先生を呼ぶと、ただでさえ細い目をさらに細めて野田先生は微笑んだ。


「春希さん、いらっしゃい」


ニコニコ。野田先生は笑っている。これが本当の癒し系というやつだろう。
翼と別れて野田先生の元へ向かった。


「この前は全く話せませんでしたからねぇ。久しぶりです。元気でしたか?というかすっかり元気になりましたね」
「まぁそれなりに。野田先生はあんまり変わらないみたいだね」


独自の雰囲気が懐かしくて自分が中等部生に戻ったような気になった。というか未だに高等部だという自覚はないのだけど。


「ていうか、先生」
「どうしましたか?」


この穏やかな空気に流されそうになったが、特力のクラスに入り最初に感じた事をしっかり聞かなければ。


「翼の目の下って…」


そう言うと野田先生は一瞬顔を曇らせた。しかしすぐにいつもの表情に戻し口を開く。


「春希さんが思っているものですよ」


もし私がお洒落かと思っていたらどうするんだ。ここでそう突っ込む雰囲気でもないので、一つ溜め息を漏らした。

やっぱり罰則印。
文化祭でみた時は衣装や文化祭の雰囲気に合わせたお洒落だと思おうとしたが、違ったようだ。

何をしたのだろう。
確かにやんちゃではあったが、罰則印をつけられるような事をしでかしたのだろうか。


「…って、春希ちゃん?」


考えに耽っていると背後から名を呼ばれた。振り向くと見覚えのないロン毛の高等部男子。


「………………明良?」


誰だよこいつと思っていた人物の顔をよく見ると、なんとなく覚えがある。記憶を辿ってみるとそれは殿内明良だった。


「あ、久しぶりー」
「久しぶりじゃねーよ!いつ帰ってきたんだよ」
「一ヶ月くらい前だよ。文化祭の時」


そういえばまだ会っていなかったな。

最初から気が合わない合わないと思っていたし、今もそう思っているのに何かと縁のある明良。


「みずくさ!帰ってきたら言えよー連絡くらいちょうだいよー」
「きもいです。
ていうか明良学校居なかったし仕方ないじゃん。私も補習ばっかで授業受けれなかったし」
「相変わらず冷たいなー春希ちゃんはー」


ふぅと溜め息を吐いた明良はジッと私をみる。
相変わらず失礼な目だ。品定めするような目。まぁ実際に品定めしているのだろうけど。


「まぁそんな警戒しなさんなって」


ぐるりと腰に手を回して体を無理矢理引き寄せられた。
女物の香水とタバコが混じった臭い。どんな生活をしてるんだこいつは。


「離せ離れろどっかいけ!」
「わははー」


セクハラ魔に必死に抵抗する私とにやける明良を見て「相変わらず仲良いんですね」なんてニコニコする野田先生。
全然仲良くないし。






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