「妹さんが入学したんですね」


夕日が射し込む生徒会室。やっと見つけた後ろ姿に声をかける。
ゆっくり振り返り、私を見て溜め息を吐いた。失礼なやつだ。


「会って最初の一言がそれなのか、お前は」
「こんにちは今井くん」


なにを怒ってるんだと言われたが、怒っているわけではない。

昴は椅子に座り直し読んでいた資料を机の上に伏せた。かけていた眼鏡を外し、これもまた机の上に。
頬杖をつき二度目の溜め息姿は、昼間の秀と被った。


「逃げ続けるなんて無理な話だろ」
「まあ」


私もすぐそこにあった椅子に腰を下ろし足を組む。


「妹が入学したと聞いたとき驚いたが、やはりなとも思った」


昔昴が何を思っていたのか知っている。
妹ができると喜んでいたことも、家族を守るためにとった行動も。

今、昴はどんな気持ちなんだろうか。私だったらどうだろう。悲しい、とか、せっかく頑張ったのに、とか。いろいろ思ってしまうのだろうか。

自分自信に嘘ついて、周りにも嘘ついて。いつの間にかそれが自分を守る行為になっている。

それは良いことなのだろうか。


沈黙。こういう空気は苦手だ。頭をフルに回転し話題を探す。


「…蜜柑ちゃんと蛍ちゃん、お友達みたいね」
「蜜柑…」
「特力の後輩でね、会って1日なのに結構なつかれちゃったよ。可愛いね小学生って」


そう言って窓の外を眺めた。夕日が眩しい。
今頃蜜柑ちゃん達は楽しく文化祭を廻っているのだろうか。


「俺の妹は全く可愛いげは無かったぞ」


いつの間にか眼鏡をかけていた昴が私と同じように窓の外を眺めながら言った。
確かに蛍ちゃんは大人びていて、愛想は無かった。

しかしお前が言うか、と。
お前の初等部時代も可愛いげのかの字も無かったぞ、と。


「あれはクールなんだよ、クール。ほらほら流行りのツンデレだよ昴くん」
「つん…………?」
「それに蛍ちゃは可愛いよー。どこかの無愛想堅物眼鏡とは違うの」
「…おい、それは俺の事か」
「ノーコメントで」


足を組み直し窓の外から昴に視線を移す。


「本当にお前は変わってないな」
「うん。ごめんねえ」


いつものように笑ってみせた。






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