あのあと秀と別れ、私も喫茶店から出た。


「あー!春希先輩や!!」


一人寂しく歩いていると元気いっぱい私を呼ぶ声。誰だと見れば、ツインテール。蜜柑ちゃんだ。

アラジンの格好にポニーテールの印象がついていたが、普段はツインテールなのだろうか。可愛いから何でもいいのだが。


「蜜柑ちゃん、こんにちは」
「こんにちはー!!先輩なにしてるん?」


まだ1回しか会っていないのにこのなつき様。ある意味才能だろう。


「うーん…特になにも。蜜柑ちゃん、の、お友達?」


蜜柑ちゃんの隣に立っている二人の美少女(いや、一人は制服からしたら美少年か)に目をやる。眼鏡にくせ毛の可愛い子と、異様に落ち着いた雰囲気の美人な子。
目が合うと眼鏡の子が背筋を伸ばし「初めまして!」と挨拶をしてきた。


「あ、と、飛田祐です。えっと、生徒会の西有さんですよね?開会式でみましたっ」


緊張しているのか頬を染めながら話す姿はとても小学生らしい。こちらも自然と笑顔になる。


「よく知ってるねえ!すごーい」
「あだ名は委員長っゆーねんけどな、委員長幹部生に詳しいんやでー。ていうか春希先輩幹部生やったんやなぁ」
「まぁ、一応」


今のところ本当に一応。名前だけ。
すごいすごいとキラキラ目を輝かせる蜜柑ちゃんをごまかすように笑いながら黒髪の女の子を見る。私と目が合うと笑いもせず無表情のまま名乗った。


「今井蛍です」


今井蛍。
その名前と、よく見れば似ていない事もない顔。一瞬で様々な事が頭をよぎる。


「…今井昴の」
「…妹です。一応」


こちらもまた、一応、か。

やっぱり。漏れそうになった言葉を飲み込んだ。
蛍。彼の口からは随分と昔に聞いた名前だ。

妹ができたのだと、手紙を握りしめ喜んでいる姿。名前を聞くと「蛍」だと笑っていたのを覚えている。
そのあとあった様々な苦労を忘れてはいないから、今ここにいる蛍ちゃんの存在には驚かずにはいられなかった。


「…先輩どうかしたん?」
「え?」


ぼんやり1人で思慮の海に溺れていた所を蜜柑ちゃんに心配され、大丈夫だと答える。


「ていうか、春希先輩も生徒会なら蛍のお兄さんと知り合い?」
「知り合い…まぁ、知り合いだな」


どうして?と蜜柑ちゃんに聞くと「あんなー!!」といきなり憤慨し出した。


「なんかあの人、すんごい冷たかったしひどかってん!!昔からあぁなん?」


いったい何をされたんだ。あまりの蜜柑ちゃんの勢いに私がたじろんでいると、蛍ちゃんがどこからか出した馬の手のような物で蜜柑ちゃんを殴った。

それにまた引いていると「ごめんなさいこの馬鹿が」と蛍ちゃんが謝る。


「い、いや…」
「別に兄がどうあろうと私には関係ないんです」


表情一つ変えず蛍ちゃんは言った。いったい昴は何をしたんだ。この嫌われ様に笑ってしまう。


「…でも、家族は大事にしなきゃだよ」


何も考えず口から出た言葉。蛍ちゃんの頭を撫でるように触った。


―――妹だ、たぶん、感謝はしている、住む世界の違う、必然性、


(なるほどね)


そりゃ、こうなる。何も知らないまだ小さなこの子達からしてみたら相当に嫌なやつだろう。

昴よ、哀れ。

きょとんと私を見ている三人に怪しがられないよう、蜜柑ちゃんの頭も撫でた。ついでも言ってはなんだが飛田くんも。


「じゃあ、またね」
「え、先輩もう行ってまうん?」


もっと話したいと蜜柑ちゃんは言うが、折角の蜜柑ちゃんの初めての文化祭。友達との時間を邪魔するわけにはいかないし、手を振った。
今度蜜柑ちゃんや蛍ちゃん、飛田くんに会うことがあったら面白い話でもしよう。






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