「今日の午後からみんな帰ってくるらしいですね」
「また騒がしくなる」
「私楽しみです」


夏の終わりを知らせるように鳴く魔法生物を見ながらスネイプ先生は顔をしかめる。

「我輩はやる事があるので帰ってよろしいかな?」
「私は午後まで暇です」

ホグワーツにきてから毎日あった個人授業が今日はない。
なぜなら今日は9月1日。始業式と入学式があるからだ。

無事2年間分の勉強を頭に詰め込む事ができ、今日から3年生としてホグワーツの生徒と共に学校生活を送る。


「勉強でもしてればどうかな?」
「もう飽きるほどしましたよ」


無理やりスネイプ先生を屋外に連れ出して散歩をしていた。
無理やりと言ってもローブをひっつかんで屋外に連れ出したわけではない。本人は渋々でもちゃんと来てくれたんだから。


「生憎、我輩にはミスカワウチと戯れている時間は無くてね」
「残念です」
「では失礼する」
「…私も戻ります」


1人で外をうろうろするのも迷子になりそうなので寮に戻る事にした。
私から話すネタはなく、スネイプ先生から話しかけてくる事なんて滅多にないので自然と沈黙になる。

私がスネイプ先生に懐いた(懐いた、と他の先生から言われた)当初はその沈黙には耐え難い物があったが、今はその沈黙さえ居心地が良い物だ。不思議なもので。


「…両親と離れての生活は辛くはないかね?」
「え?」


スネイプ先生が沈黙を破った。明日は雨か雪か嵐か。そういえば雲行きが怪しい。


「…あ、え、平気です。スネイプ先生が居るんで」
「我輩が?」

あ、スネイプ先生の眉間の皺が伸びた。

初めてみた彼の驚きの表情。やっぱり明日は嵐か。

「はい。先生が」
「…ミスカワウチは今ごまでもすっているのかね?」
「むかっ。本心ですよ。それに私は嘘はつきません」

するといつもの顔に戻り鼻で笑われた。

「綺麗事を…」

馬鹿にするような笑顔に冷たい声。

「ほんとうですよ。私は嘘をつきません」
「13年間ついた事がないと?」
「はい。つかれた事も数回しかありませんし」
「…嘘だと気づかないだけではないのか?そのような…ミスカワウチのような世界に生きてみたいものだ。気づいていないだけで、きっとお前の人生は嘘に塗り固められている」


そんな訳はない。

両親が私に嘘をついた事はない。私は両親に嘘をついた事はない。
友達から嘘をつかれた事は数回。そのたびに私が怒るから誰も私に嘘を言わなくなった。


私の人生に嘘は必要ない。
たまに冗談はいうけどね。


「、両親が言ってたんです。嘘はいらないって。人を傷つけるだけだし、つかなくて良い方法があるはずだって。
大切な人の前では素直で居れとも言われました。嘘をついて、素直にならず生きて後悔するのは自分だと言われました。
家訓です」

じっと私の目を見ながらスネイプ先生は「是非、君の両親の顔を拝見したいものだ」と言った。

「スネイプ先生は嘘つきますか?」
「我輩の人生で、嘘をついた事がないなどと言う人物と出会ったのは一回だけだ。たった一人」
「どんな人ですか?」

気がつけば城の中。

「ミスカワウチお前だ」
「…左様ですか」

スネイプ先生に別れを告げて一人で行けるようになった寮へと向かう。
雨が降り出した。






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