ホグワーツでの生活にちょっとずつだが慣れてきた。
同じ寮の人達には『穢れた血』だと嫌われバカにされ。あのドラコはあれ以来話しかけてはこない。
グリフィンドールにも嫌われているので私の友人はハーマイオニーしか居ない。
他の寮の生徒も私には近寄らない。


授業が始まってからはスネイプ先生と会う時間もなく(魔法薬の授業で私は毎回失敗するので顔はよく合わせ嫌味もよく言われるが)、思った以上につまらない毎日だ。



私の唯一の友人であるハーマイオニーと話していると、赤毛のロナウド・ウィーズリーにより邪魔される事も多々ある。よっぽどスリザリンを嫌いなようだ。というかもはや彼は私が嫌いだろう。
2人と一緒にいる丸眼鏡の彼の名前は知らない。今度ハーマイオニーに聞いてみよう。





つまり私は暇なのだ。
ハーマイオニーをウィーズリーにとられたから。
そんなこんなで廊下をとぼとぼ歩く私に話しかけてきた人物一人。



「……カエル」
「見るのは初めてかい?」
「はい。こんなチョコレート初めてみました。グロいですね。これはさすがに食べませんよ私」


クスクスと笑うのはルーピン先生。防衛術の授業を担当しているなんだかくたびれた先生。というかみすぼらしい先生だ。
数回授業を受けたが良い先生だとは思う。


「なんですかこれ?」
「魔法で出来たお菓子だよ」


カエルの形の、しかも動くあまりにグロテスクなそれが入っていた箱をそっと閉じる。
これが、チョコレートだなんて。私は板のチョコレートで満足なのに。どうしてカエルの形にした。


「美味しいのに」
「食べ物って見た目も大事なんですよ。綺麗な料理は10倍美味しいって母が言ってましたもん」


先ほどルーピン先生に遭遇した。目が合ったのでついつい癖で会釈したら、
「君はカオリだよね?」
なんて授業でも話した事はないのにいきなりファーストネームを呼ばれうろたえると、なんでか立ち話をする羽目になり、しかもグロテスクなチョコレートまで頂いてしまった。返したけど。


「東洋人で、しかも編入生だなんて珍しいね」


私が返したカエルのチョコレートをパクリと口に運んだルーピン先生はポツリと言葉を発した。絶対まずいな、あれ。


「珍しいんですか?あれ、でも先生は今年から赴任なさったんですよね?」
「あぁ、私もホグワーツの生徒だったんだよ。編入生も東洋人もそんなにいなかったよ。特に編入生はね」
「へー。そっか先生も魔法使いですもんねぇ。あ、失礼ですけどおいくつですか?」


みすぼらしい格好や白髪混じりの髪。それプラス痩せた体で老けてみえるが、なんだかそこまで年齢を感じさせない雰囲気。
ちょっと気になってハーマイオニーに聞いたりもしたが、流石のハーマイオニーも知らなかった。


「33だよ」
「33…私の両親と同い年ですね」


イギリス人と日本人とじゃこうも違うのか。と、しみじみ思う。
自分と同い年の生徒をみて自分の容姿の幼さに嘆いた日もあったが、やはり根本的な物が違うのだ。仕方ない。開き直ろう。


「同い年、か…。君の両親はどんな人だい?君はとっても素直で、嘘を知らないね。良い教育だと思うよ」
「良い教育ってここにきて数回言われます。初めてですよ」
「素直なのは良い事だよ。そう育てるのはなかなか難しい」
「それに私の両親は普通の人ですよ。魔法使いでもないし。
父は過保護で心配ばかりしてよく喧嘩してました。母は逆に放任主義で、優しくて料理は下手だったけど好きでした。
お父さんは料理が出来る所くらいしか良いとこ無かったな」
「その言い方じゃあまるで父親は嫌いみたいだな」

ルーピン先生が笑う。
手にはカエルのチョコレートのパッケージ。

「しつこかったんですよ。何かとズルいし…」
「でも君は素直に素敵に育っているね。一目みただけで、一言会話をしただけでわかるくらいに。きっと君のお父様も素晴らしい人なんだよ」
「そうですかね?
両親が、とくに父は私に嘘をつくなとずっとずっと言っていたんです。良い事はないって。それが原因ですよ。
それだけです」

まだ離れて数ヶ月なのに両親がとても懐かしい。
ルーピン先生に両親の事を話しているうちになんだかもう二度と会えないような気持ちになってきて気が沈んできた。


「そうか。良い両親なんだろうね」
「まぁ」
「両親は好きかい?」


そろそろ午後の授業が始まるな。廊下を行き交う生徒をみてぼんやりとそう思った。

「とても好きです」


ただ正直にそう答えた。
ルーピン先生は嬉しそうな、悲しそうな表情で頷いた。


「午後の授業が始まる。あ、これは普通のチョコレートだよ。食べなさい。ローブのポケットに入れていたけど溶けてはいないだろう」
「え、普通の?」
「動きもしない普通のチョコレートだ。若いのに食事をとらないのは体に悪い。君を嫌いな人なんて極一部だよ」
「あ…」

ウィンクさえしなかったが、ルーピン先生は私の手に無理やりチョコレートを握らせた。


「知ってたんだ…」
「私達も君達も同じ空間で食事をとるからね。じゃ、私は授業の準備があるから失礼するよ」ボロボロのローブを翻して去っていくルーピン先生の背中は不思議と懐かしく、なんだかとても、大切な人達に会いたくなった。






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