楽しい食事も終わり各自寮に帰っていく。
「ねぇ、」
声をかけるか迷った。だって私は嫌われているから。
でも時間がたって話しかけるのも気まずいし、さっさと済ませてしまおう。
「…あ」
青ざめた表情でとぼとぼ歩いていた豊富な栗色の髪の女子生徒は、私の顔を見るや更に困ったような顔をした。
やはり嫌われているのか。
嫌われるというのはあまり気持ちの良いものではないなと思った。
早く、終わらせよう。
「えっと…あなたこれ落とした?」
ローブのポケットから先程拾った砂時計を出し女子生徒に見せる。
すると先程までの青ざめた表情から一変して女子生徒の顔は輝いた。
「やっぱりあの時落としたのね!」
嬉しそうに私の手から砂時計を取る。
やっぱりこの人のだったのか。良かった。
違ったらただ気まずくなるだけだったろうから安心した。
「あ、拾ってくれてありがとう。とても困ってたの…えっと、どこか触った?」
「ううん。ずっとポケットに入れてたよ」
なら良かったと安堵の表情を浮かべる女子生徒はやはり綺麗だ。この学校の人は皆、宝石のような瞳と髪を持っている。
日本人の私が持っていない物だ。
「マクゴナガル先生から頂いた時計なの。無くしたら大目玉をくらうところだったわ。…さっきはごめんなさい」
「え?」
そうだったのかと、ふむふむと聞いていたらいきなり謝られた。
「ロンが…あー、赤毛の男の子がさっき…不快だったでしょ?」
「あぁ…ううんいいよ。ねぇ、スリザリンって嫌われてるの?」
「まぁね。嫌な奴ばっかりだから…あ、ごめん」
今の言い方では私を不快にさせたと思ったのか。女子生徒は再び謝った。
「そうなんだ。私今年ホグワーツに編入してきたからよくわからなくて。そっか、やっぱり嫌われて…。嫌な奴…そうね、嫌な奴…」
先程のパーキンソンとかいう女子生徒を思い出した。うん。嫌な奴だ。チキン。
「編入?珍しいわね。あなたいくつ?」
「今年13歳になったの」
女子生徒は目を丸くした。
「――あ、私、てっきり新入生…あ、ごめんなさい、また私あなたを不快にしたわね…。東洋人って見慣れてなくて、幼くみえるから…」
「ああああいいの気にしないで。慣れてるから」
なんだか良い子そうなこの女子生徒を困らせて、謝らせてばかりなので申し訳なくなってどもってしまった。
外国人と交流はよくあった。そのたびに幼い幼いと言われ、そういうのに慣れているし不快でもない。
じゃあ良かったと女子生徒は笑った。
「あ、私はハーマイオニー・グレンジャーよ。あなたと同じで13歳。あなたの名前は?」
「カオリ・カワウチ。この夏に日本からきたの」
答えると、遠いわね!私一度日本行ってみたいの!とハーマイオニーは笑って言う。
「カオリね。ねぇ、あなたさっきパーキンソンと喧嘩してたわよね?何気に目立ってたわよ?あれ、素晴らしい喧嘩だったわ。頬は大丈夫?」
「大丈夫。ていうか、見てたのね…恥ずかしい」
叩かれた頬を自分でなぞる。
「一発やり返せば良かったのよ…あんな子。
あの、なんであんな喧嘩になったの?」
答えたくないなら答えなくていいわ。
そう付け足したハーマイオニーは控えめに私に聞いてきた。
「うーん、なんだか私が気にくわないみたい。ドラコ・マルフォイの隣に座ったら嫉妬したみたいだし。
あと穢れた血とかなんとか言ってた」
思い出すとふつふつとその時の感情が蘇る。
ハーマイオニーは私の言葉を聞いて怪訝そうな顔をした。
彼女は百面相だ。クールそうなのに。
「…穢れた血?あなたが?どうして」
「そもそも穢れた血ってどういう意味なの?私まだあまりこの世界の用語がわからなくて」
「…マグル生まれの魔法使いに使う、差別用語よ」
ハーマイオニーはとても答えにくそうに言った。
マグル生まれの魔法使い。確かに私の事だ。
「…そういえばスリザリンは純血主義とかスネイプ先生が言ってたな」
「そうよ。でもあなたスリザリンでしょ?純血じゃないのにスリザリンなの?おかしいわ」
私に詰め寄るハーマイオニーに「私も知りたい。帽子に聞かなきゃね」と答えると、視界に赤毛。
「ハーマイオニー!」
こちらに向かってくる赤毛の男子生徒。
「いきなりいなくなったから探したじゃないか」
ずんずんと歩く赤毛の生徒は私を見るとすごく嫌そうな顔をした。
それを察したハーマイオニーは赤毛を睨んだ。
「彼女今年からホグワーツに編入してきたんですって。私の落とし物を拾ってもらったの」
「へー、編入なんて珍しいんだな」
眉間に皺を寄せたまま私をジロジロ見てくる赤毛はどうしても私が嫌いらしい。
私が嫌いなのか、スリザリンが嫌いなのか。
「寮に戻ろうぜハーマイオニー」
「え、あ、えぇ…」
先に歩き出した赤毛はついて来ないハーマイオニーを待っていた。
「じゃあお休みなさいカオリ」
「お休みハーマイオニー」
「あまり…ロンの態度もだけど、いろいろ気にする事ないわ。私も両親はマグルなの」
「え、そうなの?」
「ねぇ、良かったら私達仲良くしましょう?」
驚いた。
少し照れたような表情で「仲良くしましょう」というハーマイオニーに飛び付きたかったがぐっと耐えた。
箒に初めて乗った日も、こうやって足を地面から浮かさないように必死だったなぁ。
「もちろん!ありがとうハーマイオニー!まだまだ話したい事はあるけど、赤毛くんが待ってるみたいだし、お休みなさい」
にこり。
笑ったハーマイオニーはやはり綺麗で、外は土砂降りだけど私の心は晴れ晴れしていた。
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