天気が良いときは散歩をしようと決めている。この学園でできる数少ない息抜きだ。


「あー、春希ちゃんやないのー」


そんな時に我が特力にやってきたある種の問題児春希を馨は見つけた。
夜は任務に連れ出されているからと昼間は基本的に寝ているらしいが、今日は珍しくこんな昼間から花壇の前に座っていた。

急に名前を呼ばれ驚いたらしく勢い良く振り返る。


「あ、ごめんな驚かせて。で、珍しくこんなとこで何しとるん?」


馨が春希の隣に腰を下ろすと春希は目線を馨から花壇に落とした。

柚香の次くらいにはなつかれていると思ったがまだまだだったらしい。担任のくせに全然なつかれず可哀想だと行平先生を笑っていたが、自分もなかなかだと感じた。
やはり、柚香の次になついているのは野田か。流石に仏にはかなわないかと落胆した。


「はなを…」
「へ?」


まさか春希から口を開くとは考えておらず。つい間抜けな声を出してしまった。


「はなを、あげようと」
「…花?あぁだから花壇の前におるんか」
「だけどかわいそうだから」


珍しくぽんぽん話すなぁと春希の会話に耳を傾ける。小さな自信の無さそうな声。


「花、ぬくのはかわいそうだからどうしようって」
「ははーん。なんや、良い子やなぁ」


事情心情を把握した。
自分だったら引っこ抜くところだが、可哀想だと春希は言う。


「じゃあ作ったらええよ」


そう言うと春希は目を丸くした。そんなに驚くか、と笑いそうになったが堪える。


「…どうやって?」
「絵に描くとか折り紙に折るとか、」


粘土やそういうアリスを持つ子に頼むとか。案を出していくとふんふんと微かに頷きながら真剣に聞く春希にまた笑いそうになる。

良い子なのに、可哀想に。






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「キツネだろ!」

この日は授業で折り紙をしていた。各自好きなように紙を使い作品を作っていく。
見事に女の子しか居ないクラスだが楽しんでいるようで、作った作品に絵を描き足したりハサミをいれてみたりと賑わっていた。


「ちがうよぉーチューリップだよ!」
「えー!わりぃわりぃ!」


紙を数回折って出来上がった作品を持って行平に見せにきた女子生徒の作品を見事外してしまった。しかし女子生徒は行平の間違いに怒るでもなく再び友人と折り紙を楽しみに行った。

その姿をみて行平も自分の作業に戻った。


「なー、春希も楽しいか?」


目の前に座っている春希に尋ねる。相変わらずの無表情。上手くクラスの皆と溶け込めず、こうして二人で向き合い折り紙をしている。


出会った当初より色んな顔を見せるようにはなったがまだ完璧に心を許してくれたわけではなさそうだ。しかし柚香には大分なついたようで2人で居るときは泣いたり笑ったりしていると聞き安心する。


「楽しいよ」


そう答えた春希はやはり無表情。柚香と居ると見える笑顔は今日も見れなさそうだ。
それでも楽しいのなら良いかと自分も折り紙を続けた。





授業が終わり各自寮へと帰っていく。
折り紙という普段よりゴミに溢れた教室を豪快に歌を歌いながら掃除をしていると教室の扉が開いた。春希だ。


「お、忘れ物か?」
「ううん。まってなさいって」


教室に入ってきた春希は扉のすぐ近くにあった椅子に座る。

今日も任務か。と、少し息を吐いてまた歌を歌い掃除を再開した。


「先生それ、どうしてすてるの?」


後はちりとりで集めたゴミを取るだけ。いつもよりカラフルなゴミを見ながらしゃがむと春希が喋った。


「え?そりゃあいらないからなぁ。ゴミだし」


突拍子もない事を聞いてきた春希に首を傾げる。
しかし、なんで?と疑問が多い年齢だろうし自分が深く考えても仕方ない。
春希の疑問に答えて、再びゴミを取ろうとしたらまた春希が口を開いた。


「わたし、楽しくしてるほうがいい?」


つい自分の口から「へ?」と間抜けな声が漏れる。

なにかあったのだろうか。ジッと春希の顔を見るが無表情で何も読めない。
行平がうーんと唸り顎に手を添える。変に勘ぐって答えるのも自分らしくない、と素直に答える事にした。

「そりゃもちろん」


ちりとりから手を離しポリポリと頭を掻く。
まだ何か言いたい事がありそうな春希をジッと見ていると、春希はゆっくりと口角を上げた。






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