「…春希?」

久しぶりに足を踏み入れた初等部の寮。A組の生徒は大部屋だったはずだが、春希は一人部屋。初等部A組にしてトリプルの春希の部屋は広く、誰の趣味かはわからないが家具はピンクやフリルなどで統一され可愛らしい部屋となっていた。

その可愛らしい部屋の家具や本、勉強道具は全てひっくり返っており、台風でも過ぎ去ったかのようだ。


「春希」

もう一度呼びかけるとベッドがもぞりと動いた。柚香はゆっくりベッドに歩み寄り膨らみに手を添える。

「……起きてるの?」

顔まで毛布がかかっていて起きているのか寝ているのかわからない。
申し訳ないと思いながら毛布を剥ぐと規則的に寝息をたてて目を閉じている春希が居た。寝ている。

それに安心した柚香はその場に座り込んだ。緊張の糸がぷっつりと切れて、少しだけ涙を流した。






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翌朝、春希は眠りから目を覚ますと頭に鈍い痛みを感じた。内側からズキズキと痛む頭。手や腕も痛い。
朝日がさしこむ部屋、腕を見ると痣ができている。

昨晩の事を思いだし、朝から憂鬱な気分で寝返りをうつと予想だにしなかった人物がいて小さく声をあげてしまった。

小さな声だったがその人物を目覚めさせるには十分だったようで、もぞもぞと動きながら柚香ちゃんはゆっくりと目を開けた。


「……あぁ、春希、起きたの」
「ゆ、ゆかちゃん…」


床に座り、ベッドの上に腕と頭を乗せ寝ていた柚香ちゃん。なぜいるのか。寝起きの頭で必死に考えたが答えは出ない。
春希が戸惑っていると柚香ちゃんは笑って口を開いた。


「早起きだね」


春希は柚香ちゃんの声を聞くと涙を流した。安心したのかなんなのか、自分でもわからない。泣いてしまったのだ。

春希の涙をみて柚香ちゃんは慌てて立ち上がり春希の頬に手を添えた。


「ちょっと、どうしたの?痛いところでもあるの?」


柚香ちゃんの問いに答える事ができない。なんで泣いているのかといわれても、わからないから。
春希はただ柚香ちゃんの服の袖を握る事しかできなかった。






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