あれから一年。内気な性格は変わらずだが春希はすっかり人間らしくなった。
外に出て花を摘んだり、絵本を読み見様見真似で字や絵をかいたり。
以前より増えた笑顔を見る度に安心する。抱きかかえると成長を実感し、感動したりしなかったり。






「特別生徒…春希が?」
「あぁ」


春希が入学してすぐに、行平は過去の生徒名簿を探し両親のアリスを調べたようだ。それから思い当たる春希が持っているだろうアリスは「カウンター」と「増減」の二つ。
2つのアリスを春希も持っているか調べたところ二つとも持っていた。

能力的に特力の生徒として1年過ごしてきたが、昨日初等部校長から西有春希を特別生徒と同じように扱えと指令があったらしい。明日からでも任務を任せる、と。


「どうして?普通のアリスじゃない。それに春希の親は特別生徒じゃ無かったんでしょ?なのに同じアリスの春希は特別生徒だなんて…」
「両親は高等部からの入学だっけみたいで、さすがに大人と変わんねー奴らは扱いにくかったんじゃねーの?そりゃ、ガキん時からそういう事させてたら、あいつにとっては良い駒に成長するだろうけど。小泉月なんか良い例だ」

心なしか苛立っている様子の行平先生をみて柚香は考えを巡らす。

春希も月のようになってしまうのだろうか。それか、昔の自分のように。毎日色も音もない世界で。汚い手と心しか見えない世界。
妹のように可愛がってきた春希にそういう思いをさせたくはない。


「嫌だよ先生。なんとかしてよ」
「なんとかするさ」


そう言った行平先生は唸りながら伸びをした。大きく息を吐いた後、こちらを見た行平先生はにやついていて柚香は思わず粟立つ。なんだ。


「しっかし。あーんなに春希の世話嫌がってたのに、今はこんなに春希ちゃん溺愛なんですかー?柚香ちゃんは?」


行平先生はニヤニヤと馬鹿にしたような口調で柚香の顔を覗き込んできた。


「な!別に春希の世話嫌がってなんかなかったし!」
「ふ〜ん。親バカになるなぁ柚香は」


未だにニヤニヤと笑う行平先生に蹴りでも一発かまそうかと考えた。しかし、今はこうしてじゃれあっている場合でもないので今にもはじけそうな足を抑えた。


「せっ先生だって…!」
「俺は子供には厳しくいきてーの」


真面目に春希の事を考えてよ!と柚香は叫んだが行平先生は笑ってあいつなら大丈夫と言った。


「しばらくは様子見だな。初校長がどうでるか、春希がどうなるか。まぁでも春希も成長したし、柚香のおかげだな」


ありがとう。そう言って大きな手が頭に置かれた。

不安は消えたわけではないが、自分一人で何とかできる問題ではない。この手に任せようと柚香はぼんやり考えた。







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