「可愛いだろ?!西有春希3三歳でーっす!」
「…」

幼い子を抱き抱えて行平和泉はそう言った。
顔は可愛い。まだ幼いのに将来を期待出来る顔立ち。髪の毛はふわふわで色素が薄い。なんとも羨ましい。

しかし、不機嫌という三文字が顔に書いてあるようだ。
一目見ただけで扱いにくそうだと安積柚香は感じた。

なんと返すのが適当かと考えていると行平先生は「この子の世話してくんねぇ?」と柚香に言った。

「…はぁ!?世話!?」
「世話っつっても絵本読んでやったり話してやったり遊んでやったり、たまに一緒に寝てやったりだよ。簡単簡単」
「ななななんであたしが…っ」


柚香はまだ十四歳。弟は居たがあまりに昔の事なので覚えていない。三歳の、いかにも扱いにくそうなこの子の世話は難しすぎる。


「まぁいろいろあってなー。とりあえず、柚香がお姉ちゃん変わりになってくれ!たぶんこいつ特力だし!」
「お姉ちゃんって…」
「お前長女だしなんだかんだ面倒見良いだろ?じゃあ今日放課後こいつと特力の教室居るからな!」


片手を上げて春希と共に行平先生は去った。一人取り残された柚香はただ呆然としていた。















「俺十七時まで仕事あっからそれまでお守り頼んだぞー」

特力の教室に行くとすぐに行平先生はそう言った。あんまりだと柚香は感じるも、そそくさと去って行った行平先生に口答えは出来ない。


「…えっと、春希ちゃん、だっけ?」


とりあえず話しかけると春希は小さく頷いた。やはり顔は可愛い。態度は解せないが。
不安なんだか不機嫌なんだかわからない表情をしている。


「とりあえず何かしたい事とかある?」
「……」
「……」


話しかけるも無反応。ジッとこちらを見つめるだけだ。
尤も、その目は見つめるというよりも睨みつけているようだったが。


「あぁ…くじけそう」
「どうかしましたか?」


早くもくじけそうだとうなだれる柚香の隣に野田くんが現れた。神出鬼没は今に始まった事ではないので驚かない。


「先生にこの子のお守り任されちゃって…」
「お守り?あ、可愛い子ですね。新しい特力の生徒ですか?」
「…あたしもよく知らない」

柚香がそう言うと野田くんは春希の前に立ち、表紙に日本史Bと書かれた本を見せて「一緒に本読みますか?」と春希にたずねた。


「野田くん…それ高校生の教科書」

柚香がつっこむと春希はゆっくり口を開いた。


「…じ、よめないから」

ぽつりと春希の口から言葉がこぼれた。
初めて聞いた声に柚香は驚く。
その間に野田くんは春希と会話をしていた。


「まぁこれは高校生用の教科書ですからね。絵本は好きですか?」
「しらない。よんだことない」
「読んだ事…一度も?」
「うん。ママもパパもいつもいそがしいから春希とあそべないの」
「…じゃあいつも何してたんですか?お外で遊んだ事は?」
「てれびみてたよ。そとは出たことないもん」
「出たことないって…」

野田くんと春希の会話を聞いていた柚香がつい言葉を漏らす。
有り得ない。そう感じた。

虐待か、育児放棄か。しかし特別痩せてはいないし食事は与えられていたのだろう。体が弱いという話も聞いていないし、見た目健康的だから病気で外に出られなかったわけではなさそうだ。


柚香が閉口している間も野田くんは相変わらずにこやかな表情で話を続ける。

「動物は好きですか?」
「…犬とか?」
「そうです。犬とか猫とか鳥」
「…てれびでみたことあるよ。あと、まいにち朝からお家のまどに鳥さんがおはよーっていいにきてた」


春希が今までとは違う表情で話をしていた。どこか楽しそうに両手をパタパタと動かしながら。

こんな風にも話せるのかと柚香が考えていると、野田くんは「じゃあ動物小屋に行きましょう」と春希の腕をひいた。


「ど、動物小屋!?」
「はい。外に出た事がないなら出してあげましょう。このくらいの年齢ならいろんな物に触れてみた方が良いですよ。きっと」
「…そうなの?」
「学園には小さい子も居ますからね。なれましたよ。流石にこんなに小さい子は初めてですが」


へぇ、と感嘆の声を漏らし野田くんと春希についていく。






可哀相な子だと思った。だけれどそう思ったって過ごした日々は何も変わらないのだ。なら未来を変えていくしかない。







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