他人のアリスを強くする能力はあるけど、自分のアリスを強くするのはなかなか難しい。
そんな事で無理をしたり、季節の変わり目だったりで春希が体調を崩した。風邪から発熱、発熱から嘔吐、嘔吐から脱水…というまぁまぁ大変な状態だけれど、あのくらいの年齢ならよくある事。しかし、あのくらいの年齢だから油断は出来ない。

可哀想に、あの歳で入院だなんて。


「春希はいつ退院なの?」
「一週間後だってよ」

すっかり春希のお姉さんに化した柚香に春希が入院して、と説明すると意外にも柚香は冷静だった。

「まぁ様子見って感じだし、今はもう大分良くなったみたいだからなー。お前も時間があったら顔見に行ってやれよ」
「当たり前じゃない」


柚香は最近五十嵐の紹介で高等部の志貴とも仲良くしているようだ。教師の自分が一生徒である、お年頃の柚香に首を突っ込むのも余計なお世話か。周りがいろいろ敏感になっているが、今はとりあえず何か言うのは控えた方が良いだろう。

そういえば杏樹の方も大変そうだったな。

行平がうーんと頭を捻っている間も柚香が隣から「どこの病院?」「すぐ会えるの?」「食事制限は?」なんていろいろ聞いてくる。今は考え事してんだよ、なんて思いながらも質問1つ1つに答えていく。あぁ、自分って素晴らしい教師だこと。





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優しく頭を撫でてくれる。暖かい。寝る前は側に居てくれて、ママが居るだけでいつもの何倍も安心して眠りにつく事ができた。春希の前ではいつも笑っていたし、ママが笑ってくれるだけでパアッと気持ちが明るくなる。
春希は世界で一番ママに愛されていると思っていた。学園に来るまでは。けど、きっとそんな事はなくて春希の勘違いだったのだろう。ママはあんなに冷たく手を叩いたりしない。もしかしたら違う人だったのかも?

病室は不思議なくらい昔を思い出させる力が強い。看護師さんのせいだろう。ママも看護師だった。

「春希ー?」

春希がぼんやりと昔を思い出していると、病室の入り口から聞きなれた声がした。

「もう大丈夫なの?」

入院して四日目。制服姿の柚香ちゃんがお見舞いにきてくれた。今の時間から考えて学校帰りだろう。
行平先生や野田くんがよく来てくれるが柚香ちゃんは初めてだ。嬉しくなった。

「もうだいじょうぶだよ。今日ねつが下がったの」
「良かったね」

病室の端に置いてあった椅子をベッドの側に持ってきて柚香ちゃんは腰をおろした。鞄を持っている。学校からそのまま来てくれたのか。

「寂しい?」

腰をおろしてすぐ、柚香ちゃんはそう聞いてきた。そんな事聞かれると思ってもいなかった春希は、え、と間抜けな声をもらしてしまった。

何と答えるのが良いのだろう?

寂しいと言ったら困らせてしまうかもしれない。寂しくないと言ったら可愛くないと呆れられるかも。
適当な答えはなんだろう。

「すぐ退院できるから大丈夫だよ」

春希がじっくり考えていると柚香ちゃんはそう言った。
すぐに、答えられなかった。何が思われただろうか。柚香ちゃんはいつもと変わらない優しい表情だからあまり深く考える必要はないのだろうか。

とりあえず「そうだね」と笑っておいた。






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