ミンミンと蝉が鳴いている。煩い。
けれど、夏がきたって感じがするから蝉の鳴き声は好きだよと行平先生が言うから。そう言うから春希も蝉は好きだった。というか好きになる事にした。
それでも夏の暑さは堪らない。堪らない。
只でさえ暑くてイライラしているのに、目の前にはヤツがいる。
いつだったかに入学してきた今井昴だ。
「今井くん。ここ、わかる?」
「うん。わかる」
すごーい!なんて、クラスの女の子の声。
つん、としているメガネのぼっちゃんのどこが良いんだ。
女の子しかいないクラスだからってモテちゃって。
正直春希は自分が浮いているのは分かっていた。
特別生徒だし周りに馴染めず中等部や高等部の先輩とばかりいるから。
いじめまではいかないけど基本的にはクラスメイトからは無いものとして扱われている。
そんな中でぽっと出てきたクラスメイトがチヤホヤされたり、浮かれている女の子達がなんとなく気に食わない。
嫉妬といえば、嫉妬だろう。
自分には無いもの、自分が入れない世界とは憎いものだ。
どうせその輪にいなくても私は楽しい。なんて、酸っぱい葡萄理論でいる始末。
「…あの、こっちむけよ」
そんな中でセントラルタウンにある動物園でのスケッチの授業があった。
二人一組になりスケッチする。
ちなみにスケッチするのは動物ではなくてお互いの顔。二人一組でスケッチ、というか似顔絵を描こうという授業。
本来なら友達同士でやるものだけれど、友達のいない春希と唯一の男子生徒の昴は行平先生によりペアになった。
春希はわざと顔が隠れるようにして頭の中の記憶の昴を描く。
昴にとって春希はクラスメイトではあるものの、そこまで話したこともないのでぼんやりとした顔しかわからない。
根が真面目な巣は雑に描くという事も出来ず、顔を見せてくれない春希に苛立ちを覚えていた。
「スケッチブックで顔をかくしてたらかけないだろっ」
少し口調を強めて春希へ言うものの無視。
「こらこらー春希ちゃーん!かわいいお顔を今井昴くんにみーせーてー?」
見かねた行平先生が春希の頬をつつく。
友達のいない春希。
異性なら仲良くなるかもとペアにしたものの、春希の人見知りやひねくれた性格でなかなうまくいかなかった…と、内心は落胆していた。
「つんつーん」
行平先生に頬をつつかれ、気を許している相手というのもありきゃははと無邪気に春希は笑う。
「あ」
笑った。と、声を出しそうになったがぐっとこらえたのは昴の勘。
そういうと春希がへそを曲げそうだから。
「はーい春希はこんなお顔でーす」
「もーやめてー」
ついでに脇もくすぐられスケッチブックを地面に起き顔を行平先生へ向ける。
普段無表情で授業をうける春希の表情とは違う。
「わたしはちゃんと描いてるよー」
「春希は描けても昴にはちゃんとお顔見せて上げないと描けねーだろ?昴は入学したばかりでまだ全員の顔がわっかんねーの」
チッチッチと人差し指を春希の前でふる。
ぷーっと顔を膨らませ、はーいと年相応の返事をすると地面に置いたスケッチブックを膝の上に持ち直す。
次はちゃんと顔が見えるように。
「あ、ありがと」
「…べつに」
行平先生は二人の様子を見ると少し安堵の表情を浮かべ、他の生徒の様子を見に行く。
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