ディアレスト | ナノ
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たくさんの荷物を持って隆二の部屋に入ると、もう既に飲みだしている6人のメンバー達。初めて入る隆二の部屋は、とても綺麗に整頓されていて、家具も統一されている。


隆二は荷物を端っこに置き、テーブルの上にあるお酒の数々を見て、ちょっと拗ねた顔をした。


「ちょっと!何、先に飲んでるんすか!!」

「わりーわりー!あまりにも遅くって。あ!笹川さん!」

「こんばんは!えーっと、三代目のリーダー直人さん……ですよね?」

「覚えてくれたんですか!?」

「もちろん、みなさんの名前はちゃんと分かりますよ」


私もまじまじとテーブルの上を見ると、空になったビール缶が何本もあって、凄いな……想像以上だ。と圧倒される。でもこうでなくちゃ!と変に張り切ってしまい、私の中のリミッターが解除された。私だって負けないんだから!


そして、漸くみんなと乾杯して最高の時間の始まり。最初は軽い挨拶をして、直己さんの乾杯のコールで飲み会スタート。


もう話し出したら止まらないし、お酒も進む。こんなにたくさんの人達とワイワイお酒を飲んだのは久しぶりだから、楽しくてしょうがない。


数時間が経ち、ちょっと具合が悪くなってきたので、こっそりベランダに移動して気分転換。今日の夜空も相変わらず最高に綺麗だ。


「大丈夫ですか?」

「広臣君……全然大丈夫。ちょっとペース早かったかな」


そこにやって来たのは広臣君。私の異変に気付いて、お水も持ってきてくれた。すごく気が利く人で優しい人だなぁと思った。


「ここの隣に住んでるんですよね?ならこの夜景を毎晩見れるんですね、羨ましいです」

「我ながら良いところ見つけたって思ってるよ、すごく気に入ってるの」

「ここで飲むビールは最高ですね。嫌なこともすぐに忘れられる」


そう言って、ぐいっとビールを飲み干した広臣君は、なんだか寂しそう……というか、とても悲しそうな表情だった。


「嫌なことでもあったの?」

「うーん、まぁそんなところですね」


何かを考えながら、遠くを見つめている広臣君の横顔は、とても美しくて見入ってしまう。こんな素敵な人を悩ませるものは何だろう。お節介ながら、私でよければ力になりたいと思った。


「なんなら、私が話でも聞いてあげようか?」

「大したことじゃないんですけど……彼女と、上手くいかなくて」

「……広臣君、彼女いるんだね」

「はい、最近忙しくって全然会えてないんですよね。だから彼女が、僕が浮気してるんじゃないかって疑ってて」


忙しくて、会いたくても会えない、声が聞きたくても時間がない。私たちは仕事に生きる人生を送っているから、そうやってすれ違うのは残念だけど当たり前なような気がする。


「私も、どうしても仕事を優先しちゃって何度もフラれてるから、その気持ち分かるなー」

「そうなんですか?」

「嫌いになったわけじゃない、ちゃんと好きなのに、それを伝える時間が無さ過ぎて、すれ違っちゃうんだよね」

「僕もそうです。会いたい気持ちは彼女と同じだと思うんですけど、時間がなくて約束もできなくて」

「そうだねー。私なんて、甘え方も忘れちゃったよ。恋ってなんなんだろうって……根本的な所からダメになってる」


お酒の力って本当に怖い。知り合って間もない人にこんなに弱音を吐いたことなんて一度もないのに……こうも簡単に話してしまうなんて。


「私、基本的に弱音吐いたりしない人なのに、どうしちゃったのかな。かっこ悪い。もう酔っぱらってるみたい」


弱さを笑って誤魔化して、ビールを飲もうとしたけど空だった。だから部屋に戻ってビールを取りに行こうとしたら、甘い囁きが私を惑わせる。


「いいですよ、僕でよければ何でも聞きますから」


そう言って、ぐっと腕を引っ張られた。強く握られた手首が少し痛い。交わる視線はお互いを探り合っている。でも私の方は揺らいだ。どうしてこう、すぐに気持ちが揺らいでしまうんだろう。胸が苦しい。


「ごめん、私最近失恋したばっかで、こうやって優しくされるのに弱いんだ。しかも酔ってるし何するか分かんないよ」


最終警告。ちょっとした優しさも命取り。ましてや彼女がいる広臣君にときめいたって何の意味もないじゃない。心の中で平然を装って、自分を保とうとするのに必死だった。


「ビール、広臣君もないでしょ?取ってくるから」

「いらないです。それに柚羽さん飲みすぎです」

「こんなの飲んだうちに入らないって、まだまだ飲めるもん。さー!今日はパーッと飲むぞぉ!」


広臣君の真剣な眼差しが怖くて、握られた手を払って歩き出そうとしたら、急にめまいが襲ってきて体勢を崩した。


すると、とっさに広臣君が支えてくれて私は何を思ったのか、彼に抱き着いた。


「優しくしないでよ。彼女いるくせに」

「なんか……ほっとけないです」

「ほら、またそうやって優しくする。私のことなんか興味ないくせに」

「そんなことないですよ」

「じゃあ、慰めてよ」


いい大人が情けないけど、優しくされると求めたくなってしまう。傷ついた心を癒してほしかった。ほっとけないなら、最後まで付き合って。彼の優しさに私は完璧に揺らいでいるんだ。お酒のせい?100%そうは言いきれなかった。


それに、ちょっとだけ前に付き合っていた人に似てる。思い出を美化して、私は何をやってるんだろう。


「……ごめん、今の忘れて?完璧に酔ってるみたい」

「どんなに柚羽さんのことがほっとけなくても、僕にはやっぱり彼女の存在が大きいです……ごめんなさい」


どうして失恋した気持ちになるの。どうしてこう、胸がズキズキして痛いの。そんな簡単に彼を好きになるわけがないじゃない。


ふふふっ、と笑って私は傷ついていないフリをした。


「分かってるよ、ごめんね」


ちゃんと上手く笑えただろうか。広臣君は、今何を思っているんだろう。もう何もかもわからない。貴方の気持ちも、私自身の気持ちも。


だからやっぱり、お酒のせいだってことにしておいて。





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