ディアレスト | ナノ
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久々に寝起きの悪い朝を迎えた気がする。寝る前にセットしたアラーム音が、いつもよりもはるかに嫌な音に聞こえた。


「うぅ……少し飲みすぎた」


昨日は結構遅くまで隆二とビールを飲んだ。おつまみを持ってこられたら、いくらなんでもお酒が進まないわけがなくて……そしてお互い同い年だってことから呼び捨てで呼び合うようになった。


結局、あまり多くはお互い話さなかったけどとても楽しかった。今度は夜ではなくて昼間にちゃんと会ってみたいなと思うほどだ。


鉛のように重たい体を引きずりながら会社に行く準備をする。今日は大手化粧品メーカーの社長様とコラボ商品の打ち合わせがあるので、いつもより綺麗に、清楚な服装を選んだ。もちろんすべてBANASの商品で。


全ての準備が整って家を出て鍵を閉めた時、ちょうどお隣さんも部屋から出てきた。なんて偶然。


「おはよう、よく眠れた?」

「あ、柚羽。そりゃあ全然眠れなかったよ」


そちらも二日酔いですか……とほんの少し掠れた声は笑っているが、肝心の表情は深く帽子を被っていて、そしてサングラス姿なのでさっぱり分からない。


隆二は鍵をかけた後、私のことを下から上までまんべんなく見通して驚いた声を出して近寄ってきた。


「え、このバックとか全部BANASじゃん!金持ってんなー」

「まぁ、ここのブランド好きだからさ」

「すげー、これからデート?」

「こんな朝早くにデートなわけないでしょ、仕事!それになんでそんなに完全防備なわけ?男にスッピンもなにもないでしょ」

「ワケがあんの!ほら、行くぞ」


そう言ってスタスタとエレベーターに向かっていく隆二。初めて見る彼の後ろ姿は、とても逞しくて少し見惚れてしまった。置いていかれないように小走りで隆二を追う。


エレベーターに乗ったところで、ほんの少しばかりの無言の空間が嫌でとりあえず一応聞いておこうと思って口を開いた。


「ねぇ、隆二はどこ行くの?」

「俺も仕事だよ」

「ふーん。ま、お互い多くは語れない仕事だもんね。着いてこないでよ?」

「それはこっちのセリフ」


昨日の夜、隆二のことを聞いても全然答えてくれなくて、それに私も簡単にBANASの社長だなんて言えやしない。だから他愛もない話しかしなかったのだけれど、こんなに周りからの視線を気にするような格好をしてるということは、芸能人とかだったりするのかな?と思った。


でも敢えて聞かない。これでも昨日知り合ったばかりなのだから、ズケズケと足を踏み入れて良いとは思えない。それはきっと隆二も同じことを思っているんだろうな。


1階についてエレベーターの扉が開き、自然と先に降ろしてくれた。私は駐車場にそのまま向かおうと思ったら、隆二は入り口の方に足を運んだのでお迎えが来るんだと察する。


「じゃ、仕事頑張ってね」

「おう!柚羽もな」


軽く手を振って車に向かう。マンションの入り口の前を通ってみると、もう隆二の姿はなかった。どんな仕事をしてるのかとても気になるところだが、これから気持ちの切り替え。絶対に今回のコラボの商談、決めてみせるんだからと意気込み、グッとハンドルを握った。





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