ディアレスト | ナノ
×
- ナノ -






恋多き女だと自覚はしている。惚れやすいタイプ?そんなの分からない。目と目が合って、意気投合して、見た目も中身も全て愛せると思ったから心が惹かれた……ただそれだけのこと。なのに、これが最後の恋だと思ったこの恋愛は、どうしてこうも終わりが短いんだろう。


「ごめん…俺、他に好きな人ができたんだ。だから別れよう」


そう、彼に告げられたのは3日前の出来事。忘れたくても忘れられないあの瞬間は、今でも脳裏に焼き付いている。呼び出されたお店の名前も、座席の位置も、彼が別れを告げる言葉をなぞる唇も。


「たったの2か月かー、前回の反省を生かして仕事と上手く両立してきたつもりなんだけど…」


あの彼とは最後の恋だと思えるほど、私自身を理解してくれていると思っていた。そんな私は大手化粧品メーカー「BANAS」の社長兼スタイリスト。仕事が忙しいどころではない。休む暇もなく目まぐるしい毎日を仕事と共に過ごしているのだ。


それなのに恋人を作ろうと思うのがそもそも間違っているだが、女に生まれた以上常に恋をしていたいと思うのが普通だと思っている。しかし、前回の彼氏は1か月も持たずにフラれてしまった。


だから今回はちゃんと彼氏との時間も作ろうと努力してきたんだけど、やはり駄目だった。彼氏との時間は皆無。フラれて当然なのだ。


「やっぱり私には仕事が恋人かぁ〜」

「そんなこと言ってたら一生結婚できないよ?」

「うっ……それは辛い」


ストレートにスパッと痛いことを吐いたのは、幼馴染で同じくメイクアップアーティストを目指して、専門学校も一緒だった腐れ縁、米山麻美。


卒業後、私は自ら会社を立ち上げて成功した。しかし彼女は就職をして数か月美容室で働いていたが、そこの会社の社長にセクハラを受けて退社。その後私が声をかけてBANASの社員に。今では良き右腕となっている。


「最近止めてた専属のスタイリストの仕事、また始めたんだって?」

「うん、来週から。会社にいない日が続くから、その間よろしくね」

「あんた社長なんだから、自ら働かなくたっていいじゃない」

「部下に任せきりじゃダメでしょ。それに腕も落ちるし、経営ばっかしててもつまんないもん」


社長であるにも関わらず自らアーティストを手掛けるのは、自分の腕に自信があることと、自らの手でこのブランドを発信していきたいから。何より、スタイリストとしての仕事にやりがいを感じていて、とても楽しいから。


BANASとは、コスメブランド。しかしそれだけではなく、ファッションやヘアーなどの幅広いジャンルも扱っている若者向けのブランド。


22歳の時に祖父に経営業を学び、少し手伝ってもらったこともあったが自らのブランドを立ち上げて、当時はかなり世間を賑わせた。あれから4年が経った今もなお、その勢いが衰えることなく愛され続けている。


「それで?引っ越し先ってどこ?」

「もう少し行ったところ。いやー手伝ってくれて本当に感謝だよー」

「ま、仕事休み貰えたからいいけど、随分と平凡な所にしたね。金あるくせに」

「ひっそりと暮らすのも悪くないかなって思って、それに!ここでお金は使いたくないの」

「あぁ、アメリカ行く準備か」


そう。私は今年中に、創業時の夢だったアメリカ進出を狙って国外に出る。もっともっと自分のブランドを広めていきたい。たくさんの人をこのブランドで笑顔にしたい。そんな、大きな夢を手に入れるために。


だからこの専属スタイリストの仕事が、私の国内でする最後の仕事になるのかもしれない。やり残したことがないように、思いっきりやりたいことをして、夢に向かっての第一歩を踏み出すんだ。


この先の未来を考えると不思議と力が湧いてきて、何もかもが上手くいくと、そう思っていた。






prev | next 1 / 9

TOP