ディアレスト | ナノ
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今日の仕事は軽いご挨拶の後、三代目のマネージャーさんとの日程確認と、スケジュールの調整から始まった。そしてその後、雑誌の撮影が入っていて、私はスタッフに指示をしながら自らの仕事もこなす。


BANASが今後、男性にも支持されるブランドになる為に色々なところからアイディアを貰う。今まで男性ファッションには触れてこなかったから、新しい発見がたくさんあったのと、確かな手応えを感じた。


仕事に集中していたら、スタジオ入りするまでの変な気まずさなんて何処かへ行って、メンバー全員と普通に話しもするし笑い合ったりもしてる。もちろん隆二と広臣君とも、普通に。


プライベートと仕事は全くの別物。プライベートを引きずって仕事に支障が出る程、私達は甘くない。


「やっぱ今までのスタイリストさん達と全然違う気がする。ファッションのイメージも俺らにピッタリな感じだよね」

「そうですか?ありがとうございます!」


直人さんに褒められて気分が上々だった時、一本の電話が鳴った。


「はい、笹川です」

「大変お忙しいところすみませんねー。米山ですけど今大丈夫?」

「なんだ、麻美か。うーん、まぁ大丈夫だよ」


次のシーンの衣装を決めながら電話に出る。度々スタッフの人たちから私を呼ぶ声が飛び交う中、それが聞こえているのか麻美は早々と要件を話し出した。


「じゃー手短に話すけど、HOPE STOREの販売担当者からBANASの商品を取り扱いたいって連絡が入ったんだけど、どうする?」


HOPE STOREとは多くのブランド品を販売しているデパートのことで、一度うちの方からアポを取ったことがあるが断られたことがある。



「え?そこの会社さ、交渉する前に断ってきたとこだよね?」

「そうそう。でも社長が新しく変わったじゃない?それでかなって思うんだけど」


こちらとしては良い話なことに変わりないが、なんか嫌な予感もしなくもない。でも一度、話してみる価値はありそう。


「じゃー私のスケジュール、メールしておくから適当に空いてるとこに予定入れといて」

「了解」


電話を切ったあと、やることを全てやり終えてから早速パソコンでHOPE STOREを調べる。社長が変わってから体制も大きく変わったようだ。すると、私をドキドキさせる魔法の香りが漂った。


「忙しそうですね、眉間にしわが寄ってますよ」

「そう?ちょっと本業の方が慌ただしくって」


振り向かなくても分かる。広臣君がペットボトルのお茶を持って来てくれて、横に座ってパソコンの画面を覗いて来た。ぐっと顔が近づく。昨日の飲み会がなければ、ここで私は普通に対応できるのに。


ずるいよ、私だけがこんなにドキドキして。


「HOPE STORE?あの、ブランド品をいっぱい扱ってるとこですよね?」

「そう、うちの商品を取り扱いたいって言われてさ。ちょっと調べてるの」

「ふぅん、あまり無理しないようにしてくださいね」

「またそうやって優しくする」

「違いますよ。本当に心配してるんですって!」


罪な男だよね。狙ってそんなことが言えるわけない。だから憎めないんだ。きっと、みんなに優しい広臣君だから私だけが特別じゃないのは分かってる。彼女が一番だよね。いっそ嫌いになれたらいいのに。


「私、広臣君ほど優しくて罪な男はみたことないよ」

「えっ?何ですかそれ!」

「でもそれが、広臣君の魅力なんだろうね」


罪な男と言われて、ちょっと拗ねた顔も直ぐに笑顔に変わる瞬間がたまらない。他にどんな表情をするの?もっと私に見せてほしい。嗚呼、どんどんあなたにハマっていくのが手に取るように分かるよ。


でも、報われないのも分かってる。


気持ちばかりが先走ってしまう。私が貴方に出会うのが今の彼女よりもう少し早かったら……私を選んでくれたのかな?


撮影に呼ばれて、頑張ってくださいね!と笑顔で撮影に向かう広臣君を見送り、頬杖をついた。そして心の底から無意識に出た言葉は、誰にも気付かれずに姿を消していく。


「どうしてくれんの、私のこの気持ち」


ごめんね、やっぱり好きだよ。




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