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いつもより早く事務所に行ったら、もう既に隆二がいた。その理由は知っている。莉央とのコラボが決まったと聞いた時はとても驚いたし、どうして自分じゃなかったのかとか、二人じゃダメだったのかとか色々思うことはあった。




それよりも素直に楽しみだし、応援しようと思った。でもそう思えば思うほど何故か心が痛んだ。俺ではダメなんだ、俺にはまだ莉央と一緒に歌うことは早いんだ…って、余計なことを考えてしまうんだ。




本当に情けない。誰一人として悪い人なんていないのに、何故だか隆二と普段通りに接することができないんだ。悪いと言ったら、確実に自分自身の小さい心が悪いのに…





「臣、おはよう。いつもより早いね」

「はよ。まぁね…」





会話はこれで終わり。今日はコラボ曲のレコーディングだって聞いてたから、これ以上話を続けていたら醜い自分を晒すことになりそうで、会話を続けることが出来なかった。きっと隆二も気づいていると思う。一切目を合わせず、ずっとイヤホンで曲を聞いているから。




自分にとって、莉央はどういう存在なのか…分からない。この気持ちは嫉妬?ヤキモチ?劣等感?分からない。でも、自分もそんなに鈍感ではない。知らない内に惹かれているんだ。そのくらい莉央は魅力のある女性だから、そうなってしまうのはおかしいことではない。




じゃぁ、もし隆二も自分と同じだったら…?




隆二を見ると、鼻歌で今回の曲を歌っているようだった。隣に座って歌詞を見ると、ひとりの女性に向けた届かぬ片想いを歌った歌詞だった。隆二が書いたの?と聞けば、そうだよ。と答えが返ってきた。その時、自分の心にドクンと脈を打つ感覚と共に頭にどんどん血が上っていくように感じた。




「……これは、誰に向けたメッセージなの?」

「え?いや、そんなメッセージ性はないけど…どうした?なんか変だった?」

「そうじゃないけど…なんか、ただの歌詞だとは思えなかったから」




隆二は真顔で歌詞カードを見つめている。気まずい空気は変わることなく、ただただ時計の秒針が動く落としか聞こえなかった。隆二は、トイレに行ってくると言って立ち上がった。だから自分の心に抱いたその予感が確信に変わった気がした。




「隆二は、莉央の事好きなの?」

「………なんで?」

「俺は……」




このままじゃ、ダメな気がしたんだ。お互いのためにならないと思ったし、何よりも負けたくない気持ち…いや、今は焦りの気持ちが先走っているだけかもしれないけど、言わずにはいられなかった。





「俺は……好きだから」





初めて自分の気持ちを認めた瞬間だった。やっぱり莉央が好きだ。誰にも取られたくない。それが隆二相手だったとしても同じ。幸せにするのは自分であり続けたい。彼女の笑顔を独り占めしたい。ずっとそばにいたい。





「そっか…頑張れ。安心しなよ、俺は莉央のこと好きじゃないし、あの歌詞は自分のことを重ねてるわけじゃないから」

「…ごめん。俺…」

「アイツ、結構鈍感だしめんどくさいところもあるけど、幸せにしてやって。莉央には臣しかいないよ」

「うん、ありがとう。頑張るよ」

「じゃ、マジでトイレ漏れそうだ(笑)臣の気持ち教えてくれてありがとう。頑張れよ!」





皮肉にも分かってしまうんだ。だって、何年も隆二の隣にいたから分かるよ。その笑顔も言葉も全部嘘だってこと。でも、背中を押してくれたんだから、もう後ろは見ない。ただ前だけを見て、莉央を幸せにしてみせる。その根拠のない自信だけが、唯一の心の支えだ。それでもあの歌詞を思い出すとそうも言えなくなる。








__ 君を幸せにできるのは僕じゃない、他の誰かで


   だから僕は見守り続けるよ


   君に相応しい男になる頃にはきっと


   もう違う幸せを手に入れているのだろう __







自信がないのは、お互い様だったりして……














そのカタチの無いものを追う勇気