小説 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -









良く晴れた日の朝、私はすでに車の中にいた。半開きの目が完全に閉じないように必死に耐えていた。ツアーの準備と新曲のレコーディングやらダンスやら諸々が一気に押し寄せる。さらにツアー後には直ぐにドラマの撮影も入るだとか…一体いつになったら休みをもらえるのか分からない。だがそれを口にしてしまうと頑張れなくなってしまいそうで、ひたすら無心でやるべきことに没頭するしかない。




そして朝早くから事務所に呼び出され、着いた時には家を出たときよりも、より一層太陽の日差しが眩しい。こんな日には何か良いことが起きればいいのになぁ。と期待を胸に事務所に入る。受付の女性の人に挨拶をすると、それはそれはとても明るい笑顔で挨拶をされた。いつものカチカチの営業スマイルはどこにいった?何か良いことがあったのだろうと、特には気にしていなかった。




マネージャーに通された部屋で5分ほど待つと、コンコンとノックの後に現れた人に、私は相当驚いた。まだ寝ぼけているんじゃないかとも思ったけど、やはりそれは現実で。受付の方の態度が違ったのも、そのせいなんだと確信を持てた。




「えっ、りゅ…隆二くん!?」

「よぅ、おはよ。本当に知らなかったんだな」

「知らなかった?って…ちょっと、どういうこと?」

「莉央、すまない。ここ最近忙しくて言うタイミングを逃してたんだけど…ツアー前に発売する新曲、今市さんにも協力してもらおうと思ってるんだ」

「………はい?」




要するに、Maronのツアーを更に盛り上げよう!との試みらしい。昔、三代目とコラボした曲以来、その後の反響が大きく、コラボの依頼が多すぎた為お断りをしていた。また久々にやりたいと思ってはいたが、全て事務所に委ねていたので実現することはなかった。まだコラボする時期ではないのかな?とも思っていたが、こうも突然にその話が実現するなんて思ってもいない。




ましてや、そのコラボレーションのお相手がまさかのまさかで隆二くんとなると……頭がゴチャゴチャしていて全くついていけない。嬉しいという気持ちよりも信じられないという気持ちが先走ってしまう。どうやらコラボするなら三代目しかいない!と事務所も思っていたようだ。




「じゃぁ、本当に突然で悪いんだけどね、曲も出来てんの。今市さん作詞やってくれたから。これ聴いといてね」

「隆二くんの作詞!?って、もう曲出来てんのかい!訳分かんない!!」

「はっはっは、莉央との曲だから俺も頑張ったよ。ミリオンセラーの天下の歌姫の名に傷がついたら困るからな」

「いやいや、なんていうか…心臓に悪いっての…」




頭を抱えながら書類に目を通す。どうやらバラード曲らしい。隆二くんとのコラボだから、まぁバラードでしょうと大体予想がつく。片想いの女性に届かぬ恋心を抱く、そんな様な歌詞だった。チラッと隆二くんを見ると目が合った。ビックリした反応をすると、こんな顔するんだと、からかわれた。




「ちょっと、からかわないでよ。楽しんでるんでしょ。ドッキリが成功して」

「違うよ。今思うと、こうやって莉央と曲作りから一緒に仕事すんの初めてじゃん?歌詞を読んでる莉央を見て、仕事ん時はこういう顔するんだなーって思って」

「どういう意味?」

「プライベートの顔しか見たことなかったから、久々にプロの歌姫の顔を見させてもらったよ」

「……やっぱりからかってる。でも……」





私はあまり音楽番組には出ない。もちろんバラエティーにもそんなに出たことがない。だから女優としての仕事でテレビに出ることの方が多い。なので三代目と共演したのもあの時の1回のみ。




本当はもっと色々と挑戦してみたい。もっと音楽番組にも出たいと思っている。デビューした当初はもちろんたくさんの音楽番組にも出ていたが、何年かして理由は知らないが事務所の方針で出させてもらえず。番組の裏話とか、他のアーティストの方々の話を聞いて、とても楽しそうだなって思うから…そして何より、またみんなと共演したいから。




「でも、すっごく嬉しい」

「…え?」

「私、また三代目のみんなと共演したいって思ってたから…本当に本当に嬉しいの」

「そっか。そう思ってくれたなら、俺も嬉しいよ」

「……隆二くんだけじゃ、物足りないけど」

「はぁ?そこは感動の終わりでよくね?お前はいつも一言多いんだよ」

「冗談よ!私の人気も、隆二くんのおかげで上がればいいなぁ〜。三代目の勢い凄いからね!」

「よく言うよ。テレビに出なくても5大ドームツアーだろ?もう今更でしょ。まだMaronの勢いには勝てないよ」




夢なら覚めて欲しくない。今まで一人でやってきた。もちろん周りのスタッフの方々に支えてもらいながらここまでこれたけど、やるのは全て自分一人だった。だから今回、一つの曲を一人で歌うわけではなく、一つの曲を二人で歌うことの喜びが膨らんで膨らんで、張り裂けてしまいそうなくらいだ。




「どうしよう。私嬉しすぎて、最近仕事が忙しくて逃げ出したくなってたけど頑張れそう。てか夢じゃないよね?」

「バーカ、夢じゃねぇよ。んなこと言われたら、俺もなんだか頑張れそうだわ」




夢なら覚めて欲しくない。でもどうやら夢ではなさそうだ。嬉しすぎてずっと笑ってたら、ほっぺをツンと小突かれて「ニヤけすぎ」と言われた。でも隆二くんも負けじとニヤニヤして笑ってる。お返しに両方のほっぺを摘んで引っ張ってやった。痛い痛いと言われても関係ない。





ごめんね。だって、





嬉しさと比例して、
その力も強くなるんだから仕方ないよね?









透明なしあわせの足音