ぜったいに先に言ってやらないけど




「随分優しいんだな、三和」
「へ?」
何の脈絡もなく言われたその言葉に、ベッドに寝転んで漫画を読んでいた俺は、間の抜けた返事をすることしかできなかった。
櫂はと言えば、先ほどからずっと手元のカードに夢中で、俺の方なんてチラリとも見ようとはしない。
「……」
ちなみに言っておくが、ここは俺の部屋であり、俺が寝転んでるのは正真正銘自分のベッドである。
俺が櫂の部屋の、櫂のベッドに寝転べる日なんてきっと一生来ないのではないかと、ここ最近特に顕著に思えてきたものだから、俺はちょっと悲しかったりもしているのだが。
(そりゃあ、諦めてはねぇけどさ)
しかし、とりあえず今は、そんな俺の胸中については横に置いておくことにしよう。

「話が、見えないんですけど?」
俺は、俯せに寝転んでいた上半身を少しだけ起こすと、櫂のほうを向いて改めて尋ねた。
「ショップ大会のことだ」
「ショップ、大会……?」
「……」
「……あぁ、その話な」
それだけで理解しろと言うのは、なかなかハードだとは思うけどな。

いつも思うが、櫂は少し言葉が足りない。少しどころか結構足りないとは思うが、せめてもう一言くらい何か言えば、与えずに済んだ誤解も今までにたくさんあっただろうにと、俺は思うのだ。
こうして長年付き合ってきた俺だって、櫂の言いたいことすべてを理解できるわけじゃないのというのに、数ヶ月同じ教室で生活してるだけのクラスメイトや、ショップで週に何度会うかもわからない奴らに、こいつを一体どう理解できるというのだろう。
「お前が、アイチにあそこまでしてやるなんてな」
それにしても、今日は珍しく櫂の方が会話を牽引していて、俺は内心少し驚いていた。
俺に対してだって、決して口数が多いとは言えない櫂だというのに、だ。
それは要するに、必要最低限のことしか言わないのだということであり。
つまりはそれだけ、櫂は何か言いたいことがあるということでもある。
そして俺は、その何かをたぶん、もうすでに掴んでいる。それが間違いではないという確信も。
わかっているからこそ、櫂の視線がやっぱりカードから外れないことに、俺はこみ上げる笑みを押さえきれずにいた。
本当に、素直じゃない奴だ。

「櫂ってば、もしかして嫉妬してんのかー?」
「……っ、違う!」
そこでようやくこちらを向いた櫂は、眉間に皺を寄せ不服そうな顔で、俺を睨み付けた。
「そうやってムキになるところが、肯定してるようなもんだっていうの、お前わかってるか?」
「……」
俺がニヤリと目を細めて言えば、櫂はぐっと唇を結んで、悔しそうに黙り込んでしまったのだった。

(……あいつのため、なぁ……)
そして俺は、そんな櫂の顔を眺めながらぼんやりと思う。

ショップ大会の、決勝戦での出来事。
確かに、俺との戦いが、結果的にはアイチのためになったのかもしれない。傍目に見れば、あいつらのために俺たちが一肌脱いだのだと、そう感じたヤツだっていたかもしれない。
だけど残念ながら、俺にはそんな立派な目的なんてものはなくて。
ただ、ひとつ。揺るがないものが、あるだけだった。

(俺の行動原理のすべては、櫂。お前にあるんだからな)

「そんなこと、お前だってもうとっくに気づいてんだろ?」
「? 何の話だ」
「んー? なんでもねぇー」
「……」
櫂は訝しげに俺の顔を見たが、それ以上は何も言わず、再びカードとの睨めっこを再開したのだった。



「俺ってすっげー愛されてんなーって話だよ」





おわり

















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