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 すぐうしろまで刑事達が来ている。直広が声を上げようとした瞬間、優はこちらに気づき、鋭い目つきに変わった。史人に何か告げ、史人は車の中へ入っていく。青信号に変わり、直広はコンビニの駐車場まで一気に走った。
「なんか、刑事が、来てて」
 直広の言葉に優は、「あぁ」と、二人の刑事を知っているかのように頷いた。
「史人君には隠れてもらったから、深田さんも、中に入ってて」
 史人を隠した理由は分からなかったが、隣に駐車している車のチャイルドシートを見て、納得した。中に入ると、小さな声で、「パパ?」と史人の声が聞こえてくる。優の車は軽自動車で、後部座席の荷物の上に毛布がかけられていた。
「あや、もう少しだけ、隠れててね」
「うん」
 ウィンドウは下ろしていないため、声は聞こえないが、優は笑みを浮かべて、刑事達と話をしていた。刑事の一人がこちらを見て、ふっと視線を外す。それから、二人は背を向けた。優は前に回って、運転席のドアを開ける。
「お待たせ」
 優は刑事達が去っていた方向を見た後、直広のことを見つめた。口元に笑みを浮かべた彼は、冷たい手で直広の頭を軽くなでる。
「平気か?」
 目が熱くなっていく。直広は首を横に振った。うしろには史人がいる。泣くわけにはいかない。直広がくちびるを結んでこらえていると、優は優しい目つきで、後部座席にあるコンビニの袋を手にした。
「あんまん、買ったんだ。あや君」
「はい」
「もういいよ、出てきて。あんまん、食べるだろ?」
「うん」
 あんまんの入った袋は直広の足の上に置かれた。温かいあんまんを見たら、涙が落ちた。
「パパ、あーのあんまん……ください」
 欲しい時は、「ください」と言うように教えた。直広は涙を拭い、すぐに笑みを見せる。史人の小さな手に、半分にしたあんまんを差し出した。
「熱いから、ふーふーしてね」
「うん、ありがと」
 優は赤信号で停止した際に、三口であんまんを食べた。
「任意同行、拒否ったって?」
 運転しながら、彼は笑った。
「あいつら、断られるなんて、思ってなかったみたい。笑える」
 直広はあんまんをかじった。健史も肉まんよりあんまんが好きで、冬になると、一つを二人で分けて食べた思い出がよみがえる。大家に人殺しと言われた衝撃は大きい。何も知らないくせに、刑事達はあきらかに、直広を疑っていた。あんまんを持つ指先が震える。
「深田さん」
 優の手が肩へ触れた。
「あいつらはマル暴だから、直接、深田さんに何かするわけじゃないよ。ほら、抗争のことで何か聞きたいことがあっただけだろ。もう来ないと思うけど」
「来るよ」
 直広は優の言葉を遮った。運転していた優は、こちらを一瞥して、また前を見る。
「また来るって言ってた? 宮田さんに言えば、来ないようにできるから、大丈夫」
「違うんです……優さん、俺の弟の遺体、どこにあるのか知りませんか?」
 直広はもう冷めてしまったあんまんを袋へ戻す。
「え? な……い、遺体?」
 優は路肩に車を寄せた。
「楼黎会が来た日、弟は死にました。部屋に弟を置いたまま、事務所のほうに連れてかれて、あの、新崎は弟のこと、何か言ってませんか? どこに埋めたとか……海に、沈めたのかな」
 直広の声は震えた。
「タケはおそらに、いるよ?」
 史人の言葉に、直広は頷く。
「そうだね。きっと、そうだ」
 優は健史のことをまったく知らない様子だった。だが、すぐに携帯電話を取り出し、どこかへ連絡を入れる。

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