きみのくに12 | ナノ





きみのくに12

 マヌはティトに見つからないようにするため、墓の上に置く石を中へ入れて、土を被せた。もともとあった草花で覆ってしまえば、どこに埋めたか分からなくなる。マヌの目の前には今、その墓があると思われる場所が見えた。
 夢だと分かり、分かったとたんに目が覚める。マヌは木の幹に座っていた。目の前には見知らぬ者が立っている。彼は指先をマヌの額へ当てていた。マヌが視線を上げて、その手へ触れようとすると、彼は指を離す。
 彼はこの土地の服を着ているものの、マヌと同じく黄金色の髪と青い瞳を持っていた。彼を見つめたまま、敵意を持った者は入ることのできない森にいることを思い出す。土の国へ避難してきた者達は多い。水の国の民がいても何らおかしくはない。
「ティ・バリ・ム・エナの大事なものを見つけた」
 ティトの名前にマヌは立ち上がる。
「ティトを知ってるの?」
 彼は目を細めて、こちらを見下ろした。ついて来い、と言葉にしなかったが、マヌを一瞥した後、歩き出す。マヌは彼を追いかけながら、ティトが戻ってきたのだと思った。会えることへの喜びを噛み締めながら、必死に彼を追いかける。背丈の低いマヌは早歩きしなければすぐに遅れてしまう。
 土の国にはダーナと呼ばれる古い大樹がある。彼はそこへ行こうとしているようだが、マヌは周囲の景色がこれまでとは異なることに気づいた。彼を呼びとめようとして、左手を伸ばした時、その腕にあるサティバの腕輪の色に足を止める。
 赤土色だった腕輪は真っ白に変化していた。契りを交わした時から、決して外れないようにと大きさを調整した後、結び目に何度も蝋を塗られた。サティバじたい赤土色のため、真っ白な状態になることなどない。
 マヌは腕輪へ触れた。内側も外側もきれいな白だ。不安が胸を襲った。何かおかしいが、それが何かは分からない。マヌはうしろを振り返った。どこまでも森が続いている。元の場所へ戻ろうと足を出した瞬間、泥を踏んだような音がした。雨は降っていないのに、マヌの足元は泥で汚れていた。
「待ってください」
 先ほどの彼を探したが、彼はもう視界から消えていた。いつもの森ではない。マヌは恐ろしくなり、彼の歩いた方角へ駆け出す。腕輪は白いままだ。ティトの名前を心で呼び続けた。
 太い幹につまづく。マヌはその場へ座り、土に擦ってしまった右腕を見た。土の国の木とは違う。風に吹かれた葉が立てる音は、ささやき声に聞こえた。
「ついて来いと言っただろう」
 彼が戻ってきた。マヌは見知った顔に安堵し、立ち上がる。
「騒ぐな。ここへ人間が入り込むのは久しいが、珍しいことではない」
 彼は木々に向かってそう言い、今度はマヌの手首をつかんだ。彼の歩幅に合わせて、マヌは体を引っ張られる。
「あの……ティトはいますか?」
 マヌは息を切らしながら、腕を引く彼へ尋ねた。彼はこちらを振り返らない。
「ここ、土の国ですよね?」
 足元の感触が変わり、マヌは下を向いた。隆起する幹にはコケがびっしりと生えている。ふと顔を上げると、そこにはダーナの大樹があった。
「ちがう」
 マヌはダーナの大樹を見上げてつぶやく。マヌが知っているダーナの大樹は幅もあったが、上に大きく育ち、枝葉が見えないほどだった。だが、目の前にあるダーナの大樹は幅は同じくらいに見えるが、何かが違う。複雑に絡んだ幹部分がコケに覆われており、枝葉の部分はよく見えた。
「ダーナの大樹じゃない」
 マヌの口から漏れた言葉に、彼は首を横に振った。


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