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 近くのスーパーは折り紙の種類が少ないため、直広は史人とバスに乗り、大型ショッピングセンターまで買い物へ来ていた。折り紙だけしか希望を言わなかったが、おもちゃ売り場まで行けば、他に欲しいものがあるかもしれない。直広は文房具売り場ではなく、あえておもちゃ売り場まで上がり、史人が目を丸くして喜ぶ姿にほほ笑んだ。
「折り紙のほかに欲しいものがあったら、教えて」
 つないでいた手を離すと、史人はすぐに興味のあるおもちゃのところへ行くと思った。だが、彼は立ったまま、こちらを見上げている。
「どうしたの?」
「あーね、おりがみ」
「うん、じゃあ、折り紙を先に見に行こう」
 もう一度、彼の手を引いて、折り紙の売り場へ向かう。直広が子どもの時より、折り紙の種類も充実していた。
「どれがいい?」
 史人の隣へしゃがみ、グラデーションの入った折り紙を手にする。史人は機関車や車のイラストが入っている折り紙を手にした。
「あ、それかっこいいね。ほかには?」
「うーん、と……」
 史人は、「これ」と言って、ごく普通の折り紙を選んだ。直広はそれを受け取る。
「よし、折り紙以外は?」
 史人が興味を持ちそうなシールや絵合わせカルタのようなものが並んでいる売り場へ移動する。だが、史人は首を横に振って、直広の足にしがみついた。視線はシールを見ている。そのシールを手にして、「これ、買おうか?」と聞いた。史人はまた首を横に振る。
「どうしたの、あや?」
 あまりぜい沢なものは買えないが、ふだんから近場のスーパーへ買い物へ行けば、百円程度のお菓子を選ばせている。そういう時、史人は嬉しそうに、好きなお菓子を手にしていた。今日は彼の誕生日で、特別な日だと教えているのに、どうして遠慮するのだろう。おかしい、と思った直広は、ひざをついて、彼の目線の高さへ合わせる。
「今日は史人の日だよ」
 大きな瞳から涙があふれる。史人は直広に抱きつき、嗚咽を上げ始めた。直広は彼を抱き締めて、背中をなでてやる。
「折り紙とこのシールでいい?」
 小さく頷く史人を抱え上げ、直広は会計を済ませる。こんな小さな子どもに分かるほど、貧しいのだと思うと、直広も泣きそうになった。だが、そう思ったのは一瞬で、直広はケーキが並ぶ一階の洋菓子店の前で史人に声をかけた。
「ほら、あや、見て。どれもおいしそうだね。どれがいい?」
 直広は史人の一歳の誕生日から、毎年ホールのケーキを買っている。自分が小さい頃には、ホールのケーキなんてあり得なかった。たいていは母親がホットケーキを焼いてくれて、時々、カットケーキが用意されることもあったが、カットケーキだけでとてもぜい沢な誕生日だと思ったものだ。
 史人なら、可愛らしいマジパンでできた人形が乗っているケーキを選ぶかな、と予想していると、彼は予想に反して、「いい」と言う。いらない、という意味だ。
「いっぱい、いい」
 先ほどのシールの時と同じだ。マジパンの乗ったケーキを見ているのに、いらないと言っている。釈然としない気持ちだったが、直広は史人への問いかけをやめて、ひとまず彼の見ているチョコレートケーキをホールで購入した。店員から紙を渡され、そこへ史人の名前を書く。チョコレートのプレートにメッセージを入れてくれるのだろう。

 眠っている史人を片腕で抱き、直広は何とか家まで帰り着いた。ケーキを冷蔵庫へしまっていると、鈴木がプレゼントを持ってくる。音声で読み上げてくれる絵本やひらがながプリントされた木製のパズルだ。鈴木は史人が眠っていると知り、わざわざ起こさなくていいと言って、すぐに戻る。
「夜、ケーキ持って行きますね」
 毎年、鈴木にもケーキを食べてもらっていた。彼女は笑って頷く。直広は十五時を回った時計を見て、携帯電話のアラームを十七時に設定した。史人の横に転がり、目を閉じる。健史が帰ってくる音が聞こえた。

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