falling down 番外編5 | ナノ





falling down番外編5

 胸にあった重みが消え、レアンドロスはうっすらと目を開けた。
「おはよう」
 トビアスが口元に笑みを浮かべて、シェードランプを消すためにベッドから出た。暗闇を怖がる彼は、朝、起きてからランプを消す。レアンドロスはベッドの中で大きく体を伸ばした。
「おはよう、ビー」
 こっちへ来て、と言う代わりに腕を広げる。トビアスはすぐに腕の中へ戻ってくれた。
「ごめん、昨日また面倒なこと……」
 足の間に座らせたトビアスが少しうつむく。レアンドロスはその顎をつかんで、顔を上げさせた。
「ビー」
 レアンドロスは確信していた。もし、トビアスに、どこへも行かないで、自分の帰りを家で待っていて欲しいと言えば、彼はそうするだろう。それが彼のためでもある。傷ついて欲しくないから、そう提案したい。レアンドロスはブラウンの瞳を見つめた。口を開く前に、ふと見た勉強机の上に視線が留まる。
 そこにはトビアスが懸命に取り組んでいるレポートがあった。ノースフォレスト校を卒業できなかったために、彼の学歴は何もない状態だ。フェレド大学への入学が決まった時、彼は泣いて喜んでいた。自分と一緒にまた勉強ができると言っていた。そんな彼から、すべてを奪って閉じ込めるなんて、レアンドロスにできるわけがなかった。
「どんな些細なことでも、悩んでいたら、ちゃんと俺に言って欲しい」
 トビアスのやわらかな頬をなで、彼の手を握った。
「誰に何を言われても、俺の言葉を信じて欲しい」
 トビアスのブラウンの瞳を見つめ、彼が頷いてから触れるだけのキスをした。ベッドから出て、先にバスルームを使ってもらう。その間、レアンドロスは昨日の残りものを片づけた。食事の途中だったことを思い出し、冷たくなっていたキッシュを少しだけ食べる。
「レア」
 まだ乾いていない髪をバスタオルで拭きながら、トビアスがキッチンへやって来た。
「温め直そうか?」
 レアンドロスは首を横に振り、ポテトも口へ入れた。
「ごめん、俺が昨日、食事中なのに突然泣いたりしたから」
「あの後、寝てる君を置いて食事することはできた。でも、俺は君のそばにいたかったから、一緒に眠ったんだ。君のせいじゃない。それに、冷めてても結構いけるよ」
 キッシュを切り分けて、フォークの先をトビアスへ持っていく。彼は小さく口を開け、冷めたそれを食べた。最後の一口を胃の中へおさめ、レアンドロスは立ち上がる。狭い流しの中へ皿を置くと、彼がうしろから抱きついてきた。自分の腹へ回る細い腕が愛しくて、レアンドロスはその手を握る。
「レア、愛してる」
 レアンドロスはその言葉にゆっくりと振り返り、トビアスのことを抱き上げた。キスを繰り返しながら、ベッドまで運び、ベッドの上で彼の着ていたバスローブを脱がせる。白い肌のところどころに傷痕が残っていた。レアンドロスは彼の肌の上へくちびるを滑らせる。彼に行為を強要してきた連中を殺してやりたいと何度も思った。だが、殺したところで、トビアスから忌々しい行為の記憶が消えるわけではない。
「ビー」
 これから先、自分が与える快感で、トビアスの中にある恐怖を少しでも和らげることができればいいと願う。レアンドロスは潤滑ジェルを使って、ゆっくりと彼のアナルを解す。左手で、彼の頬やくちびるをなぞり、時おり、体を伸ばして、彼へキスをした。
「ぁ、う、ン、あ……あぁ」
 トビアスのアナルを三本の指で慣らし、コンドームを自分のペニスへ付けた。熱に浮かされたように空を見つめていたトビアスの瞳が、こちらをとらえる。レアンドロスは彼の太股へ手を当て、自身をアナルの中へ進めた。初めての時、彼は緩いのではないかと心配していたが、彼の中は入れただけで締めつけてくる。彼の甘い声を聞き、いきそうになることも何度かあった。
 レアンドロスは手の甲で口元を押さえているトビアスの手を取った。その手を握り、腰を動かす。体格の差は歴然としていて、レアンドロスは彼の嬌態に我を忘れてしまわないよう、必死に理性と戦う。あまりにも激しくしたら、彼が壊れそうで怖かった。彼はうしろだけでいけるが、絶頂間際にそっとペニスへ触れ、しごいてやる。ひときわ高い声が漏れた後、ぐっと締めつけられて、レアンドロスも射精した。
 快感の余韻に浸り、トビアスの耳元で、「愛してる」と同じ言葉を返す。
「ビー、一生、俺のそばてにいてくれ。君さえいれば、俺は、本当に何もいらないんだ」
 涙を浮かべながら頷く、健気で愛しい存在を胸に抱く。どんなことがあっても、必ず彼を守り抜こうと、レアンドロスは決意を新たにした。

番外編4 番外編6(ミルトス視点)

falling down top

main
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -