falling down46 | ナノ





falling down46

 レアンドロスがホットミルクを作ってくれた。
「これくらい?」
 レアンドロスは蜂蜜をスプーンですくいながら、ホットミルクの中へ入れる。受け取ると、ほのかに甘い香りがした。甘いミルクを飲むと落ち着く。小さく息を吐いた。レアンドロスは隣で蜂蜜酒を飲み始める。
「夕飯は牛肉とローズマリーのオーブン焼きをメインにしようと思ってたけど、もし、胃の調子がよくないなら、もっと消化のいいものに変える」
「平気。僕も手伝う」
 三十分ほどテレビを見ながら、休憩した後、トビアスは庭に植えられたハーブやローズマリーを採りに行った。外へ出る時、ほんの短い時間でも、レアンドロスがついて来る。
「もっと?」
 手のひらを見せると、レアンドロスは、「十分だ」と笑った。二人でキッチンに立ち、料理の本を見ながら、下ごしらえをする。その間に電話が何度か鳴り、レアンドロスはイレラント語で話をしていた。
 冷蔵庫の中には、トマトサラダが入っており、ほかにジョシュアがあらかじめ用意してくれたサーモンソテーとガトーショコラがあった。トビアスはオーブンの中を見つめ、まだしばらくはかかりそうなことを確認してから、電話で話しているレアンドロスを振り返った。ミルトス、と聞こえたため、きっと弟と話をしているのだろうと予測する。
 トビアスはソファに座り、読みかけの文庫本を開いた。対象年齢が十歳程度までの冒険小説だ。ちょうど何日もシャワーを浴びられなかった主人公が、川で水浴びをする場面だった。トビアスは読み進めながらも今朝のことを思い出す。
 シャワーはたいてい朝、一緒に浴びて、バスタブに張ったお湯へ入った。レアンドロスの顔を見ることさえ恥ずかしいのに、全裸で一緒に入るなんて、もっと恥ずかしい。本当はもう一人でできると言いたかった。それができないのは、自分自身の甘えだと思う。
「ビー」
 電話を終えたレアンドロスが、視線をプレゼントへ移す。
「夕飯の前に開ける?」
 今朝から開けていいと言われていたプレゼントの中に、自分が欲しているものがないと分かっていたトビアスは、彼が、「開ける?」と聞くたびに、首を横に振っていた。
「うううん、ごはんの後でいい」
 レアンドロスは笑みを見せて、オーブンをのぞきに行く。
「ミルトスからもクリスマスのあいさつを」
 戻ってきたレアンドロスは、ミルトスの代わりに彼の言葉と抱擁をする。ミルトスの立場上、ここへ訪問する時間がないことは明白だった。彼が王子だということは、もちろんレアンドロスもその立場にあることを示す。だが、トビアスがそのことを問うと、レアンドロスは苦笑しただけだった。

 モミの木の下にあるプレゼントは、そのほとんどがトビアス宛のものだった。レアンドロスは少し飲み過ぎた、と言いながらも、一つずつ手渡してくれる。本や服に混じって、最後の一つを手渡された時、トビアスは理解していたが、レアンドロスに聞いた。
「サンタクロースにもできない贈りものってあるよね?」
 まるでその質問が来ることを知っているかのように、彼は笑った。
「あぁ、あるよ。でも、ビーは我慢強くていい子だから、ちゃんと届いてる」
 レアンドロスは、トビアスの手のひらに乗るほどの小さな箱を目の前に差し出す。トビアスは乾いたくちびるを舌でなめた。こんな小さな箱に入っているはずがないものを書いた。
「レア」
「開けてみて」
 トビアスはためらったが、自分を見つめる視線に耐えかねて、手の中にある箱を開けた。中にある小さなふたを開ける前に、もう一度、彼を見つめる。
「レア、あの、僕、手紙に」
 レアンドロスは取り戻さなくてもいいと言った。だが、あの時は取り戻すほうが彼や自分のためになると信じた。
 サンタクロースに頼んだのは、「ぼくのなくしたきおく」だ。この中に入っているなんて信じられない。ソファに座っていたレアンドロスが立ち上がり、トビアスの前にひざまずく。
「君のなくした記憶が入ってる。開けてごらん」
 自信たっぷりに言うレアンドロスの瞳は、きらきらと輝いている。トビアスはどきどきしながら、小さな箱のふたを開けた。中には彼の瞳と同じくらい輝く指輪があった。

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