きみのくに10 | ナノ





きみのくに10

 火の国は強大な国であり、首都を囲むように九つの要所がある。そのうちの一つを守る第五王子は豊富な知識と厚い人望で知られ、もっとも次期国王に近いとされていた。だが、彼は早いうちから要所を守る守人として生きることを選択しており、よほどのことがない限り、王城へは戻ってこなかった。
 ティトという愛称で呼ばれているティ・バリ・ム・エナは、成人の式の後、火の精霊と契約を交わした。彼には四人の兄がいたが、その誰よりも強力な精霊を呼び出した。王都の誰もが憧れる彼の心を虜にしたのは、火の国では珍しい青い瞳と黄金色の髪を持つ男だった。

「ティト、おかえりなさい」
 土の国と比べると湿気が多いため、森に育つ植物も異なる。陽射しも強く、ティトはマヌが長時間、外にいることを嫌った。王城のある首都を囲む要所の一つ、テワンという街に来て、一年以上が過ぎていた。ティトはまだ若いが、指導する側の者として、皆と一緒に国境に立ち続けている。
 陽が昇ってから暮れるまでと、暮れてから昇るまでの監視が主な仕事だが、ティトは今の生活にとても満足していた。父母は王城へ戻って欲しいと言う。ティトは目の前でほほ笑んでいるマヌを抱き締めた。
 次期国王争いに巻き込まれるのは嫌だ。ティトはただマヌとともにひっそりと暮らすことを望んだ。マヌも地位や権力に魅かれず、本来であれば使用人がする仕事を一人で黙々とこなしている。
「ただいま、マヌ」
 テワンは首都からも遠く、王族の者だからといって豪奢な家に住めるわけではなかった。湿地帯のある巨大な森を北に望み、南は土の国の方角へ続き、東に首都があり、ティトは西を守っている。
 木目の美しいテーブルの上には夕飯が並んでいた。努力家のマヌはこの国の料理を学び、ティトのために温かい食事を用意してくれる。出会った時は小枝のようだったが、それは今でも変わらなかった。抱き締めると折れてしまいそうな細い体をそっと抱く。
「いいにおいがする」
「今日は牛肉の香草巻きにしたよ」
 料理からは確かにいいにおいがするが、ティトはマヌの首筋へ鼻を寄せた。身をよじったマヌが笑い始める。幸せな笑い声が出てくるくちびるに口づけをした後、汗で湿っている衣服を脱いだ。防具も兼ねている衣服は少し厚みがあり、つたで編まれたかごへ入れておけば、マヌが陰干しをしてくれる。
 温かい食事を食べ、一緒に湯浴みをしてから、大きめの寝台へ寝転んだ。まだ眠るには早いが、マヌが背中や足を揉んでくれる。手を動かしながら、彼は森で見つけた新しい薬草のことや、テワン唯一の市場であった出来事を話す。こんなふうに穏やかな日々を過ごせると考えたことはなかった。
 ティトは仰向けになると、驚いているマヌのことを抱き締める。
「マヌ」
 マヌの左手首には、婚礼の儀の際に交換したサティバから編まれた腕輪がある。ティトの左腕にも同じものが巻かれていた。足元のほうへ彼を押し倒し、ティトは服を脱がせていく。体をつなげたのは、婚礼の儀の後からだ。怖がるかもしれないと考えていたが、彼はごく自然に行為を受け入れてくれた。
 うなじや胸にくちびるで触れ、小さな手を握る。マヌの中心も口でくわえ込んだ。彼の小さな声にティトの雄も大きくなっていく。彼の伸ばしている黄金色の髪が揺れた。青い瞳は自分だけを映している。ティトは香油を使い、彼のアナルを解した。そこを使われる痛みを知っているだけに、いつも慎重になる。十分に解した後、硬くたち上がっているペニスを挿入した。
「っあ、ティト、ッア、ア」
 愛しいという気持ちがあふれていく。ティトはマヌの手を握り、何度もくちびるへ触れた。山賊に襲われるという不測の事態から始まった災難は、生涯の伴侶と出会うという形で幕を引いた。ティトは中へは出さずに、彼の腹の上に精を放つ。ほんの少しの間、彼の髪や頬をなで、満たされた気持ちを感じた後、昔、彼がしてくれたように、湯の中へ布を浸し絞っては、彼の体の汚れを拭いた。
「マヌ、愛してる」
 髪へ口づけた後、くちびるへも同じように触れていく。ゆっくりと目を閉じるマヌを抱えて、ティトも目を閉じた。

 ひっそりと静かに暮らしたいというティトの願いは、数年のうちに崩れていく。闇の精霊と契約を交わし、暗躍する組織が水の国から侵略を開始するのはまだ先のことだった。侵略は戦争へと広がり、やがて火の国も巻き込んで時代が動く。だが、二人はまだ許された時間の中で、幸福に眠り続けた。

9 11(マヌ視点)

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