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 運動部の活動も盛んだが、団体競技ではあまりいい成績は残していない。それでも、体を動かすことが好きな生徒達は、放課後、どこかの部活動で汗を流している。将一の足は自然と運動場のほうへ向かった。
 運動場ではサッカー部や陸上部の生徒達が練習に励んでいる。校舎と運動場の間は幅の広い道になっており、さらに運動場へは五段の石段を下りるような造りだ。その石段のところでは生徒達が座り込んでいたり、練習している部員へ声援を送ったりしていた。
 外にいる生徒達は中の騒ぎを知らない。そう思った瞬間、将一は運動場の手前にある部室棟を見つめた。部活動に必要な道具を収納するガレージのような建物だ。各部屋にシャワーがついているため、部員達は着替えもシャワーもそのまま部屋で済ませる。
 部活動が始まる前に道具を出したら、あの棟には誰もいないはずだ。将一は吹き出す汗もそのままに、また駆け出した。端から順番に扉を開けていく。本来であれば、部活に入っていない生徒のカードでは、扉は開かない。だが、開け閉めが面倒くさいという理由から、部活動の時間中は開きっ放しになっていることがほとんどだった。
 最後の部室棟の扉を開ける。
「わ」
 将一が開けると思わなかったのか、扉のすぐそばにいた生徒が慌てて閉めようとした。明良の取り巻きの一人だ。将一は右足を間に入れて、強引に中へ体を押し込む。
「何して……」 
 最後まで言葉が続かなかった。遅かった、という言葉が胸を突き刺す。明史を犯しているのは謹慎処分を受けていたクラスメートの一人だった。他に三人の生徒がいたが、名前までは分からない。一人はナイフを持って、明史の両腕を床に押さえつけていた。
「っう」
 将一は血のにおいに口元を押さえる。一目で強姦と判断できた。明史は嗚咽を漏らしおり、合間に何かつぶやいていた。新しく買い直していたニットベストは破れ、制服シャツもナイフで切られたのか、ばらばらになっている。
 見張り役だった取り巻きの生徒が、扉を開けて逃げた。将一はにじむ視界を拭い、息を吸い込む。逃げ出した彼を追いかけて、ケータイで助けを呼ぶことを考えていた。だが、目の前の明史を放って、この場を離れるなんてできない。
「明史!」
 将一は明史を犯していたクラスメートに体当たりをした。
「何だよ!」
 明史を押さえていた生徒とケータイで動画を撮影していた生徒が、将一を拘束しようとする。
「おまえら、明史に何したっ! 全員、退学じゃ済まない! 明史に謝れっ!」
 将一は涙を流しながら、怒鳴った。三人が笑いながら、ケータイをこちらへ向ける。自分の泣いている様子も撮影しているのだと分かり、くちびるを噛み締める。
「ふざけんなっ」
 けんかをしたことはないが、怒りに任せて拳を振り上げる。何度か空振りした後、逆に腹を殴られて、その場にひざをついた。
「青野、大人しいと思ってたけど、結構熱くてウザい奴だったんだ?」
 クラスメートが胸ぐらをつかんでくる。
「可愛いから、そいつもやろう?」
 ナイフを持った生徒が、その刃先を将一に見せつけた。怖くて涙があふれる。
「いや、見張り役が逃げてる。もう誰かに見つかってる可能性が高いから、明史に合意だって言うように約束させたほうがいい」
「そうだな。ほら、明史、約束しろ。今回のことは合意だって言えよ」
「言わないと、こいつが痛い思いするよ?」
 将一は床に尻もちをついたまま、生徒達の足の間から明史の姿をとらえていた。明史の視界は天井を向いたままで、まだ何かをつぶやいている。そのくちびるの動きを見て、将一は震えながら中腰になり、生徒達の間を通り抜けた。
「明史っ」
 頭の下へ左手を入れて、上半身を抱き締める。耳元ではっきりと、その言葉が聞こえた。明史は、「許してください」と、「助けて」を繰り返し、つぶやいていた。
「ごめん、明史、間に合わ、くて、ごめ、若宮が、来るから」
 志音が来ると聞いて、先に反応したのは、将一のうしろにいた生徒達だ。
「マジで? おい、明史、さっさと約束しろよ。でないと、また犯すぞ」
 脅しの言葉に、明史はクラスメートを見上げた。小さく体を震わせていた明史のくちびるがわななく。

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