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 断った後でも、食い下がってくる相手は何人かいた。キスだけでもいいから、と言われたこともある。剛は今までの誰とも違った。将一の気持ちが友情から恋愛へ育つのを待つと言っている。
「先輩、でも……」
 剛からの告白は嬉しいが、彼を好きになるまで待ってもらうというのは申し訳ない気がした。待たせたあげく、彼と同じ意味で好きになれなかったらどうするのだろう。
「俺が待ちたいだけだ。もし、他に好きな奴ができたら言ってくれ」
 溶けかけているブドウシャーベットへスプーンを入れて、剛はゆっくりと食べ始める。悪く言えば、彼は強引なタイプだと思い込んでいた。特に今期の生徒会執行部役員は実直で温厚なタイプが多く、その中に彼がいると際立って軽薄に見えてしまう。
 だが、本当は誠実なのかもしれない。将一はシャーベットを食べ終わり、スプーンを置いた。
「もし、俺が先輩を好きにならずに、他の人と付き合うって言ったらどうするんですか?」
「別れさせる」
「え?」
「というのは冗談だ。穏やかに話し合いで解決する」
 話し合って何を解決するのかは、あえて確認しなかった。軽薄ではなさそうだが、温厚でもないらしい。将一は思わず笑ってしまった。剛も小さな笑みを見せた。

 期末試験の結果を確認した後、将一はパネルからログアウトした。試験と実力テストの結果から、来年のクラス編成が決まるため、一学期の成績だけでは二年のクラスが七組になるのか八組のままなのか、まだ分からない。
 中等部からほぼクラスもクラスメートも固定されているような状態のため、七組や八組では何が何でも上にいかなければ、という雰囲気にはなっていなかった。学園の入試に合格してここで学んでいることじたいが、一つのステータスになるからだ。
 明史は八組の中では中の下くらいの成績だった。彼の英語の成績だけは口頭試験も含めて、今回もずば抜けてよかった。保健室で里塚と何を話したのか聞いていないが、あれから頻繁に憂うつそうな表情をしている。
 黒岩がイギリスへ行くという話は、いつの間にか解雇されるという話へと変わった。教師達から聞いた話ではなく、あくまで噂だった。教師と生徒の恋愛というのは、学園側にとっては不祥事でしかないため、黒岩はあくまで自主退職という形だった。
 それが解雇になったなら、憶測でしかないが、黒岩と明史の関係は恋人同士ではなかったということではないか、と将一は考えている。いずれにしても、明史から話してくれるまでは聞かないでおこうと思った。
 ポケットの中で震えたケータイを取り出すと、剛から夕飯に誘うメールがきた。待ち合わせ場所と時間を確認して、返事を打つ。彼は告白してからも態度を変えるようなことはなく、今まで通りの接し方だった。
 好きという気持ちはある。ただ、将一の場合、剛に対する好きという気持ちは、明史や他の友達に対する好きという気持ちと同じだった。この気持ちが剛に対してだけ特別になるのかどうか、将一自身、まったく分からない。
 明良を大声で威嚇して以来、一人でいる時に、彼の取り巻きや二年の先輩達に悪意のある言葉や、わざと体へ接触された。多少、気は滅入ったものの、取り巻きの生徒達は乗り気ではないらしく、明良に逆らえない点に同情した視線で見つめ返せば、肩を落として去っていった。
 二年の先輩達は、剛が最近、将一ばかり気にかけていることに嫉妬していた。だが、はっきりと付き合っていないと告げたら、剛本人にも聞いていたらしく、双方がそう言っているなら、と引き下がった。
 もてる相手を恋人にすると大変だな、としみじみ思った。もちろん、剛には教えていない。穏やかに笑いながら、話し合いで解決すると言った時の彼の目は、少しも笑っていなかったからだ。
「将一、課題図書の本、決めた?」
 廊下の向こう側から歩いくる友達に声をかけられて、将一は、「まだ」と返した。渡り廊下から中庭を見下ろすと、園芸部員達が水やりをしていた。夏はここの窓を開けていると、時おり、心地いい風が入る。
 他愛ない話をしようとした時だった。校舎内で大音量の声が響いた。
「何だ、これ」
 将一も首を傾げる。声は明白にそういった行為の最中に出るものだ。
「いたずら?」
 将一の言葉に友達が苦笑する。
「笑えねーよ。謹慎で済まないって」
 喘ぎ声の間に相手へねだるような声が入った。
「嘘だ……」
 その声が誰の声なのか、将一が気づくと同時に、友達も眉を寄せる。複数の生徒達が図書館へ走っていった。

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