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「さっきは何を考えてたんだ?」
「明史のことです」
 剛は苦笑する。
「明史か……志音が何とかするだろ。おまえが気にかけなくても大丈夫だ」
 確かに志音の様子を見れば、彼が明史のそばにいてくれるだろうと安堵できる。だが、明史が必要としているのは彼だけではないはずだ。
「俺、明史の親友でいたいんです。前にも言いましたけど、明史は優しくて、もろいタイプなんです。誰かが、そんなムリしなくていいって言ってやらないと、どんどん一人で傷ついていくみたいな、危うさがあって」
 冷たいブドウシャーベットを口へ入れる。
「あいつは言葉で言っても、放っておいてくれって言う奴だ。まぁ、でも、前よりは素直になった感じはするけどな」
 ほのかに甘酸っぱい味のシャーベットを食べながら、将一は笑みを浮かべた。
「それで、おまえには誰かいるのか?」
「はい?」
 向かいに座っている剛が、一瞬だけ視線をそらした。
「明史でいうところの志音みたいな存在だ」
 将一は少し考えて、剛の言葉の意味を理解した。
「いませんよ。告白は、何度かされたことはあるけど、俺、まだそういう感情がわかないっていうか、友達と騒いでるほうが性に合うみたいです」
 剛は口角を上げて、「まずいな」とつぶやいた。
「何がまずいんですか?」
 ブドウシャーベットは甘過ぎず、酸っぱ過ぎず、ちょうどいい。
「振られるって分かってんのに、告白するのは初めてだ」
「え、振られるんですか?」
 こんなカッコイイ先輩を振る人間がいるのかと思い、驚いていると、剛が声を上げて笑い始める。
「ショウ、俺、おまえのそういう可愛いところ、好きだわ」
 何がどう可愛いのか分からない。将一が困惑していると、剛は大きく息を吐いた。
「悪い。仕切り直してだな、将一」
「はい」
 剛が真顔になったので、将一も姿勢をただす。
「おまえのことが好きだ」
 今まで何度か聞いたことがある言葉だ。剛が自分に好意を抱いていたとは思わなかった。
「え、でも、先輩、恋人いるんじゃ……」
 直接ではないが、剛の部屋に出入りしている生徒がいると聞いていた。実際には生徒達なのだが、そこまで詳しい内容を将一は知らない。
「特定の恋人はいない。だけど、おまえに出会ってから、ずっとおまえのことばっかり考えてて、今日、告白しようと思って、食事に誘ったんだ」
 将一は剛の言葉に納得した。高校生二人で遊ぶのに、高級料亭で食事は変だと思っていた。彼は告白するためにここを選んだのだろう。先ほど言ってしまった言葉を後悔した。こんなカッコイイ先輩を振る人間がいるのか、と思うのに、自分は今、振ろうとしている。
 剛のことは嫌いではない。ただ、まだ今は好きとか付き合うといった気持ちが分からない。あいまいにこたえて傷つけるより、はっきりと断ったほうがいいという考えから、これまでは告白されても付き合わずに、好意に対して感謝の言葉を返してきた。
 将一は剛を見つめる。彼もこちらを見ていた。その瞳は優しく、本当に好きでいてくれるのだと分かる。
「先輩、俺……」
「待つ」
「え?」
「だから、すぐに言わないでくれ。おまえの気持が恋愛感情になるまで、ずっと待つから」

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