spleen52 | ナノ





spleen52

 志音は違うのかもしれない。
「嫌じゃない?」
「何が?」
 明史は視線を落として、右手でラグの毛をなでた。
「……俺と先生、寝てるんだよ? 汚いと思わない?」
 志音が小さく吹き出す。
「そりゃ、嫌だろ。だけど、好きだったら、エッチするだろうし、それを汚いとは思わねぇよ」
「……じゃあ、そうじゃなかったら?」
 自分は何を確認しようとしているのだろう。明史はラグをなでる手を止めた。呼吸が速くなる。
「どういう意味だ?」
 志音も背中をなでる手を止めて、明史の顔をのぞき込もうとする。
「好きじゃないのに、寝てたら? ただ寂しいから、とか……」
「それでも汚いと思わない……明史、おまえ、無理やりされてるのか?」
 左手に力が入る。明史は冗談だと笑った。
「でも、もし、そうだって言ったら、若宮は家の力でも使って、助けてくれる?」
 家の力、という言葉に、志音は眉を動かす。
「俺、そんな小さい男だと思われてるのか? おまえのこと、抱き締めるために、若宮の名前なんか必要ねぇだろ」
 明史はにじんだ視界を隠した。
「最初の質問、そのままおまえに返す」
「質問?」
 意地悪な笑みを浮かべた志音は、明史のあごをつかんで顔を上げさせた。にじんだ視界をどうにかしようと瞬きすると、涙が頬を滑っていく。
「俺が若宮を捨てて、金も地位もない、ただ顔がいいだけの男になったら、おまえ、俺のこと嫌いになるのか?」
 自分で顔がいい男と言うので、明史は吹き出してしまった。志音も一緒に笑い出す。
「な? 俺のほうがあいつよりいい男だろ?」
 左手を握ったまま抱き締められて、明史は空いている右手を大きな背中へ回した。志音のことが欲しい。深く甘い香りに目を閉じて、強く願った。今週末、黒岩に何を言われ、何をされるか分からない。水川達の前では取り乱してしまったが、もしかしたら、自分はようやく解放されるのかもしれない。
「し、志音」
 初めて、下の名前で呼んだ。志音が驚いた表情を浮かべた後、にっこりと笑った。それから、そっとキスを受ける。志音の腕の中にいる間は、すべての心配事を忘れることができた。

 授業参観の日は毎年、憂うつな気分になったが、今年は違った。明史はつけ置きして手で洗った志音のハンカチに、将一から借りたアイロンを使ってしわを伸ばした。きれいに折りたたまれたハンカチを見て、ほほ笑んでくれた志音の顔が胸に残った。
 昼は将一達と食べ、中間試験の結果をパネルから確認し、授業参観当日も目まぐるしく過ぎていった。放課後は夜まで志音の部屋で過ごしたが、部屋に戻ると、最近よく将一を訪ねてくる二年生の剛とすれ違った。
 頬を染めて剛を送り出した将一を見ると、視線に気づいた彼が慌てる。
「お、おかえり」
「あ、うん。ただいま」
 将一はすぐにいつも通りの表情に戻り、「週末は帰るの?」と聞いてきた。毎週、家に帰っていると思われているらしい。明史は軽く頷いた。黒岩の部屋に行きたくなかったが、この現状のままどうにかなるわけがなかった。水川達は何も言ってこないが、何か言いたげな視線を常に感じる。
「心配ないよ」
 自分の心を読むかのように言われて、明史は驚いた。
「あいつら、来週から登校するけど、俺達、皆ついてるから」
 謹慎処分を受けたクラスメート達のことだと分かり、明史はあいまいに頷いた。

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