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 誰も信じてはいけない。明史はそう思いながら、水川達に、すべての行為は同意だと主張した。その上で、黒岩が教師という立場でありながら、未成年の明史と体の関係を持ったために罰を受けるならば仕方ない。だが、水川達が想像しているようなことは何もないと言った。
 水川は納得していない表情だった。本来であれば、今日立ち会いができなかった校長も含め、再度、事情を聴取する方向で話をしていたらしいが、理事長としては事を大きくしたくはないのだろう。それ以上の追及はしなかった。

 明史は一人で廊下を歩きながら、自分の心が乱れているのを感じた。何もかもがどうでもいいという気持ちと、もう一度、信じたらいいのに、と思う自分が葛藤している。黒岩が何もしないとは思えない。志音もきっと離れていくだろう。
 手をポケットへ入れて、ケータイのサイレントモードを解除する。黒岩からのメールを開くと、思った通り、今週末は外出届を出せという内容だった。明史はそれを消して、壁に背中をあずける。
「あれ、大友じゃない?」
「お、ほんとだ」
 志音の同室者である大河と、以前、彼が共有スペースで抱き締めていた生徒が、明史の前を通り過ぎて止まった。
「志音のとこ、行くのか?」
 大河は恋人らしい生徒の手をつないだまま、明史に話しかける。明史が頷くと、「一緒に来いよ」と言った。大河は明史より背丈はあるものの、平均ほどの身長で、少し明るめに髪を染めている。ピアスホールがあることは知っているが、彼は学園内ではピアスを外していた。
 大河が手をつないでる相手の名前を、明史は知らない。顔にも見覚えはないが、自分より低い身長に好感は持った。おそらく百六十センチほどだろう。二人のうしろを歩いていた明史だが、急にその小さな彼が振り返った。
「大友から嫌な視線、感じる。おまえ、今、こいつ、俺より身長低いなーって思っただろ?」
 図星だったが、首を横に振り、否定した。大河が彼の頭を軽く叩き、「突っかかるな」と言う。
「えー、でも絶対、そういう視線を感じた。大友だって、俺とそう変わらないのにさ、どうせ百六十五はないだろ?」
「あるよ」
 四月の身体計測ではなかったものの、きっと今はあると思う。明史の、「あるよ」という言葉に彼は笑った。
「ほんとかな? 俺、百六十ぴったりだけど、大友と視線の位置、そんな変わってなくない? 今度、保健室で正確にっい、た」
「おまえは、どうしてそういう子どもっぽいことばっかり言うんだ。ごめんなぁ」
 大河が彼を叱った後、明史に謝ってくる。明史は思わず笑った。何となく中等部一年の頃を思い出した。初等部から上がったばかりの頃はまだ、とんでもなくくだらないことで笑ったものだ。
「わ、や、すごい。大河、すごいよね?」
 何がだろうと思って首を傾げると、大河は苦笑する。
「おまえ、もっと笑えばいいのに。だけど、まぁ、あの無関心な志音を本気にさせたんだから、大したもんだと思った」
「無関心?」
 生徒会執行部などには興味がないことを知っているが、あんなに情熱的な言葉を吐く志音が、無関心というのは不思議な気がした。それに、あの容姿であれば、中等部から特定の相手がいてもおかしくない。
「志音、おまえのことも全然知らなかったんだぜ? ほら、夜に会っただろ? 次の日、あいつがいない、あいつがいないって大騒ぎして、あいつって誰? って聞いたら、あいつは誰なんだって聞き返されてさ」
 寮の三階まで上がると、大河がカードで扉を開ける。
「はい、ぞうぞー」
 中へ入ると、ちょうど共有スペースで、志音が紅茶をいれていた。
「わー、いい香り」
「おまえらの分はねぇよ」
 志音は大河達にそう言うと、明史へ笑みを向けた。

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