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 放課後、志音がメールをくれたが、明史は水川に呼び出されていると返事をした。職員室へ入ると、すぐに水川が気づき、理事長室へと向かうため、一緒に職員室を出た。
「黒岩先生は先に行ってる。明史……」
 途中で立ち止まった水川は、くるりと振り返ると、明史の視線に合わせるように屈んだ。
「俺の杞憂ならいい。だけどな、もし、もしもだ、今の関係に何か思うことがあるなら、遠慮なく言っていいぞ」
「はい、分かってます」
 明史は笑ったが、水川は笑わなかった。代わりに、軽く肩をつかみ、小さく息を吐く。
「おまえはまだ子どもだ。何があっても、守られるべき立場の人間なんだ。それを分かって欲しい」
 歯を食い縛った明史は、わざとおどけた。
「やだな、先生。そんなカッコイイこと言われたら、今度は先生のこと、好きになっちゃうよ」
 ケータイが震えたため、明史はメールだけ確認して、サイレントモードへ切り替えた。
「そういえば、先生、若宮にはばれてたんですけど……」
「あぁ、隠しきれなくてな。悪かった。だが、あいつはベラベラ話すタイプじゃないから大丈夫だろ。里塚先生にも、しつこく食い下がってたけど、太股のあの傷の話はしてない」
「……はい」
 水川の話では、志音は里塚から付き合っているのかどうか聞かれた理由として、明史の体に性行為の痕が残っていたから、という理由で納得したようだ。黒岩と付き合っているということは、つまり、そういうことだ。それなのに、自分を好きだと言える志音を改めてすごいと思う。
 明史だったら、好きな相手が別の人間と寝ていると考えただけで、嫌な気分になる。それを許容して、さらに、自分を選べ、おまえのことを諦めない、といった言葉が出てくるのは、どうしてだろう。
 ポケットの中のケータイへ触れる。先ほどの振動は志音からのメールだった。フルーツタルトを買ったから、あとで部屋に来いという内容だ。疑問に思うまでもない。彼は自分のことが本当に好きなのだ。
 自分のどこがいいのか、明史自身にはさっぱり分からない。容姿に関しては、きれいだと言われていることは知っている。だが、鏡に映る自分をきれいだと思ったことはなかった。
「失礼します」
 カードをIC部分へ当てた後、理事長の声が聞こえた。水川が返事をすると、扉が開く。理事長室に入るのは初めてだった。
「失礼します」
 明史も同じように軽く頭を下げて、中へ進む。理事長室は思ったよりも、豪華な造りではなかった。観葉植物が並んでいる窓際に、理事長が座っている。窓は大きく、運動場が見渡せた。
 応接用のソファがあり、そこには黒岩と里塚、そして、明史の担任が座っていた。四人しか座れないため、里塚と担任が立ち上がる。
「あ、俺は立ってますから」
 水川がソファのうしろへ立った。
「じゃあ、大友君、僕の隣に座って」
 担任の指示に従い、明史は黒岩の向かいになる席へ腰を下ろす。視線を合わせるのは怖いが、もし、そういった素振りを見せれば、水川にまた怪しまれる。明史は顔を上げて、ほほ笑みを浮かべてから、黒岩を見つめた。

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