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 一緒に食べよう、と言われて、明史は戸惑っていた。将一と彼の友達三人がトレイを持って、明史の座っているテーブルを囲む。志音はまだ来ておらず、将一を見ると、彼はほほ笑んだ。
「大友は冷やし中華にしたんだ? それだけで足りる?」
 将一は自然に隣の席へと座り、残りの三人も次々に落ち着いた。
「試験、難しかったなー。俺、数学は平均点いかないかも」
 皆は二日前に終わったばかりの試験の話をしながら、時おり、明史にも声をかけた。クラスメート達と昼食をともにするのは、中等部一年の頃以来だ。
「明史はさ、英語、得意だったよな? あの大問の長文読解で……」
 明史は八組の中でも、総合成績は下位だが、英語だけは三組の生徒達の間に割りこめるほどよくできる。兄が大学三年の単位取得をアメリカの提携先大学ですると言ってから、明史は英語ができれば、兄のいるアメリカへ行った時に困らないと思った。
 それから、英語だけは必死に勉強した。兄が実力と運でアメリカの企業へ就職を果たした年は、明史が中等部二年に進級した年だった。夏休みに帰省した家に両親はおらず、ケータイにかかってきた兄からの電話で、両親が自分だけを置いて、兄を訪れたのだと知った。
 明史も来ればよかったのに、と言われた時、明史はテレビ電話でなくてよかったと思った。涙を流しながら、友達と遊ぶ約束があるから、と嘘をついた後、明史は一人ぼっちの家でリビングに飾られている兄の写真を見ながら過ごした。
 えぐられるような胸の痛みを話せる相手がいなかった。ただ寂しくて、明史はケータイから黒岩の番号を呼び出した。いつものように優しい言葉をかけてもらえることを期待して、初めて黒岩の部屋へ入った。
 もしも、あの夏休みまで時間を戻せたら、と時々、考える。だが、何度仮定したところで、明史は黒岩に電話していた。上品なブラックの本棚に並ぶ家族写真は、赤子を抱えた父親の写真から始まり、初等部入学、高等部卒業、大学入学、と順番に続いていく。そこに明史が写っている写真はなかった。
「明史?」
 将一が顔をのぞき込んでくる。明史は口の中のものを飲み込み、立ち上がった。
「大丈夫か?」
「ちょっと、トイレに……」
 うつむいていたため、目の前の生徒への反応が遅れた。だが、香りですぐに分かる。
「どうした?」
 志音が眉を寄せ、明史の手首をつかんだ。
「な、何でもない。トイレに行かせて」
「あ! 志音っ、もう選んだ? 一緒に食べよう?」
 明良が出入口から入ってきて、志音のほうへ近づいてくる。最近、志音に手を出すな、つきまとうな、と注意してくる高等部からの外部生だった。愛らしい顔だちをしているが、わがままで自己中心的な性格だと聞いたことがある。性格以前の問題で、寮の三階から落とされそうになったり、捻挫した足を踏まれたりで、明史にとっては、絶対に関わりたくない生徒だ。
 志音につかまれている手首を動かして、廊下へ出ようとするが、力が強過ぎて放れない。さらに動かすと、志音は明史のことを引っ張り、胸の中におさめるように抱き締めてきた。
「テラス席のほうに出ようよ? あ、おまえら、席、取ってきて。志音、早く行こう?」
 高い声に頭痛がしてくる。ちょうど、志音で隠れて明史の姿が目に入らなかったのだろう。明史を見つけた瞬間、彼の表情に嫌悪感が浮かぶ。だが、志音が視線を彼へ落とすと、ほほ笑みにすり替えた。
「志音、何食べる?」
「何も」
「え?」
「おまえとは一緒に食わねぇって言ってるだろ」
 怒気をはらんだ声に、明良が固まった。

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