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spleen31 フェリクス×創太

 倉本創太(クラモトソウタ)は連日感じているストレスの原因を排除するため、職員室へ来ていた。担任の水川の席まで行き、パネルを眺めている彼の背後からのぞき見をする。風紀委員会顧問のくせに、水川はパネルからインターネットへ接続してゲームで遊んでいた。
 確かに放課後であり、水川がすでに彼の仕事を終えているのであれば、ゲームをしていてもいいと思ったが、学園に設置しているパネルは遊ぶためのものではない。創太は水川の背後で、「わ!」と声を出し、彼を驚かせた。
「うぉ、何だ、え、あ、創太? 何だ、創太かぁ」
「その言い方、ムカつくからやめてください。教師が放課後とはいえ、パネルからゲームしないでください。過度な色合いのスーツはやめて、教師らしい控えめなものを着てください」
 ひとまず日頃から思っていることも含めて吐き出すと、水川は笑い出す。
「おまえ、何で風紀委員になってくれなかったんだ? 向いてるぞ?」
 先生みたいな先生が顧問の委員会は嫌です、とまでは口にしなかったが、水川は創太の表情だけで感じ取ったようだ。
「まぁ、いいか。で、何だ? 中間テストの問題はばらせないが、頬にキスしてくれるなら一問だけ特別に……」
 どうして自分の担任は水川なのか、と創太は大きな溜息をついた。しかも、二年連続だ。クラスは成績順のため、毎年あまり変わり映えしないが、せめて、教師は毎年違う人間にして欲しい。
 もちろん、三年間固定がいいという意見もあるだろう。だが、外れを引いたらどうするのかと思う。
「ごめん、ごめん。ふざけ過ぎたな。ここで話すか?」
「はい。ここでいいです」
 水川と話すのは疲れる。本題に入るまでに道がそれるからだ。創太は額にかかる髪をそっと流しながら、本題に触れた。
「フェリクスのことです」
 フェリクスは今年から交換留学生として一緒に学んでいる生徒で、他に四名の留学生たちが同じく机を並べている。彼は創太の在籍する二年三組に振り分けられた。高等部二年は何かと行事が多い。
 留学生の受け入れ、チャリティー活動、夏休みの合宿が大きなイベントであり、その他にも色々とさせられる。学年一生徒数の多い二年生の中で、創太は初等部からあまり目立たない存在だった。
 身長は平均、顔だちもきれいでもなければ可愛くもない。成績はそれなりだが、努力しても三組止まりだった。両親は三組でもすごいことだと褒めてくれるが、自分では満足していない。
 どの教科も平均より少し上をいく創太には、唯一、苦手な教科がある。初等部の頃から親しんできた英語だったが、オーラルコミュニケーションは苦手で、いまだに聞く、話すといったタイプの試験では成績が伸びない。
 留学生が五名と聞いた時、自分のクラスに来る確率は二分の一だと考えた。そして、できることなら来て欲しくないと思った。英語を使ったコミュニケーションは面倒で、しかも、背の高い外国人との接触じたい、平均とはいえ背の低さを意識させられそうで嫌だった。
 そういう自分の器の小ささを嘲笑うかのように、留学生団体の中でいちばん背の高いフェリクスが二年三組にやって来た。ライトブラウンの巻き毛にヘーゼルアイを持つ彼は紹介された時はまだ遠い存在だった。そして、遠い存在でいて欲しかった。
「フェリクスのこと?」
 水川が不思議そうにこちらを見つめる。
「そうです! 俺、チューターじゃないのに、ずっと、ずーっとつきまとわれて、もう嫌です。中間試験が始まる前に、彼と俺を引き離してください」
 留学生をサポートするチューターはもともと、別の生徒が担うはずだった。それをフェリクスが自己紹介を終えた後に、「彼の隣の席がいい」と王様のように言い放ち、普段ならそういう勝手な行動を許さない水川が、「あぁ、そっち? じゃ、机と椅子、移動させて」と言い、いちばん恐れていた環境が一瞬ででき上がった。

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