spleen29 | ナノ





spleen29

「誇らしいよ。周囲をちゃんと見て、その場その場でベストな判断をして、的確に動ける光穂が、俺の恋人だなんて」
 もう一度キスをされて、光穂は赤くなる。
「……俺も。秋秀のこと誇りに思ってる。秋秀が俺を支えてくれるから、頑張れるんだよ?」
 互いにほほ笑み合っていたが、夕飯を食べていない光穂の腹がこらえきれずに鳴いた。
「ごめん、俺、帰ってすぐ寝てたから」
 すでに二十三時を回ろうとしている。購買は閉まっており、ミニ冷蔵庫には光穂の腹を満たすことができそうなものはなかった。
「シャワー、浴びておいで。その間に、食料、持ってくる」
 ベッドから下りた秋秀は、散らばっていた服を集める。シャワーを浴びている間に戻ってきてもいいように、光穂はカードを渡しておく。今度は髪も洗った。
 秋秀は菓子パンやインスタントラーメンを持ってきてくれた。電気ポットは航也が持ち込んできたものだが、こういう時に役に立つ。光穂の部屋は友達が来ることが多く、丸テーブルと椅子四脚が置いてある。
 二人で菓子パンを食べ、ラーメンをすすりながら、明良の話をした。その話のついでに志音や明史のことを口にすると、噂話に疎い秋秀は驚く。
「若宮が振られた? へぇ、あいつでも振られるんだな……そういえば」
「うん?」
 先に食べ終えた秋秀は何かを思い出すように目を細める。
「いや、あの外部生と取り巻き連中、時々、図書館の裏に来てる」
 図書館裏は一日中、日陰になる場所で、園芸部員も手を入れていない。呼び出し場所には絶好のところだが、もちろん、そういったところは風紀委員が特に念を入れて見回りしている。
「月曜の放課後、明史が呼び出されてた」
「え?」
「その話、知らなかったけど、それじゃ、きっと外部生が嫉妬心から呼び出したんだろ」
 秋秀の言葉に、光穂は食べるのをやめる。
「明史、暴力とか受けてなかった?」
 深刻な表情になる光穂に、秋秀も真剣な面持ちになる。
「いや、その時は注意みたいな感じだった。意外と二階からよく見えるんだけど、明史はあんまり相手にしてなさそうに見えたよ」
「そっか……直がさ、いじめにあってるかもって」
 眼鏡のブリッジを押し上げた秋秀が溜息をついた。
「いじめ、か」
「秋秀、そういうの見たことある? 俺、今まで見たことなくて、でも、直はあるって言ってるから、もしかして、俺、そういうの見落としてるのかなって」
「光穂」
「もし、見落としてて、誰にも相談できずに、この学園、嫌になって、辞めたいとか思って、そういうの、俺が知らないところで起きてたら、俺……」
 そこまで責任を負うことはないと直から言われていた。だが、生徒会長という立場にいる以上、生徒一人一人に楽しい学園生活を送って欲しいと思っている。それが理想論であっても、せめて自分が名前を覚えている生徒達だけでも、楽しいというその思いを、また次の学年、次の後輩達へと伝えていって欲しい。
「三年ではなかったし、今もない。俺達の学年がおっとり学年って言われてるのは知ってるだろ?」
 秋秀が隣の椅子へ移動して肩を抱いてくれる。
「二年と一年までは俺も知らない。明史のことは俺も気にかけておく。一年の図書委員達にそれとなく聞いてみる。だから、一人で全部背負い込まないでくれ。強がって、どんどん弱ってくおまえ見るの、辛いから」
 こめかみにキスをした秋秀が背中をさすり始める。光穂は小さな嗚咽を漏らし、大きく深呼吸する。懸念していることが起こらないように、自分にできることを全力でやろうと決めた。

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