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spleen26

 腕に明良をくっつけて、光穂は純粋で素直な航也のことを考えた。幼なじみの彼は、ある意味では光穂の憧れだった。
「はい、ここが最後尾だね」
「並ぶんですか?」
 光穂は軽く頷いて、「俺は先に行くけど、上田君のためにおいしいクッキーをよけておいてもらうね」と小声で言った。
 明良は特別扱いが好きらしい。目を輝かせて喜び、しばらく会場から離れたここに突っ立っていてくれそうだ。
 先ほどよりは短い列を通り抜け、中庭へ入る。次々とかかる声に、適当にあいさつを返しながら、生徒達をかき分けていく。湊は水川と話をしていた。
「すみません。ちょっと抜けた間に色々とあったみたいですね」
 水川は苦笑して、光穂の髪をかき回す。
「その色々の一つ、処理してくれたんだろ?」
 明良は入寮時から、わがままを言ったこともあり、教師の中にも悪印象を持った者もいる。彼が苦手な生徒達も多いだろう。
「……明史は立ちくらみですか?」
「あぁ。いきなり、ふらっと倒れた。最近、食堂、行ってるか? 購買で見かけるほうが多い気がするなぁ」
 水川が少し伸びかけているヒゲをさすりながら、首を傾げる。言われてみれば、最近は食堂に来ていない気がする。明史は食が細いように見えて、きちんと三食を食べる。出来合いのものが嫌いなのか、食事時はたいてい食堂にいた。
「ただの疲労だったらいいですけどね」
 湊の言葉に光穂は頷きながら、早々に書記と総務から聞き出しをしなくては、と思った。

 すっかり日が暮れた後、寮の部屋へ戻った光穂は制服シャツのボタンを外した。
 共有スペースから自室へ続く扉は、一度開けたら、開け放す設定にしてある。それだけ、同室者と仲がいいということだ。
「光穂、洗濯物ある?」
 私服姿の同室者が問いかけてきた。ベッドに伏せていた光穂は起き上がる。
「こうちゃん、神。マジでいいの?」
「もちろん」
 光穂は航也からの申出に、溜まり込んでいた衣服をカゴへ入れて渡す。洗濯がいちばん面倒な作業だ。寮の地下にあるランドリーまでカゴを運び、洗濯機を回したら、脱水が終わる頃にまた地下へ戻り、今度は乾燥機へ移動させる。
 アイロンがけが必要なものは最初から購買部横にあるクリーニングへ出すが、さすがに下着や肌着は自分達で洗濯している。航也のように家事全般が得意な生徒は、自室にアイロンを持っていて、頼めば一緒にアイロンがけまでしてくれた。
「もう中間も迫ってるけど、光穂、少しは息抜きしなよ」
 航也はそう言い残して、カゴを持ち上げ、部屋を出ていった。光穂と航也は背丈も同じくらいで成績もあまり変わらず、顔だちも雰囲気も似ている。この学園の初等部に入る前、幼稚園からの友達だった。
 家が近いこともあり、初等部から一緒に通い、光穂の歴史はまさに航也とともにあると言ってもいい。初等部の頃の初恋の相手は航也で、中等部の時は航也が好きになった相手に惚れた。その相手というのは直のことだ。
 光穂は二回も失恋している。だが、もちろん、航也にも直にも告白していない。仰向けになった光穂は天井を見ながら、息を吐く。目を閉じると、雨上がりの運動場から土のにおいがした。

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