わかばのころ 番外編16 | ナノ





わかばのころ 番外編16

 ファミレスでの待ち合わせだったため、優は先にランチを食べ終えていた。ドリンクバーからホットコーヒーを持ってきて、携帯電話をいじる。紹介すると言われて、早半年が過ぎていた。ようやく今日、若葉に会える。
 潮にとってはどうか知らないが、優にとって潮は親友だった。弟という感覚はあまりなく、対等な関係を築いていると思う。手の中で震えた携帯電話を確認すると、潮からではなく、仁和会の人間からだった。
 半年の間、優のほうも慌ただしかった。本格的に仁和会の人間がこの周辺から蓮堂組を一掃し始めて、少しずつ落ち着いてきたと言える。潮と若葉を傷つけた連中は、優自身が報復を果たしていた。
 押し殺した声で怒りをあらわにした潮が、自分を頼ってくれたことに、優はとても優越した感情を持った。潮はなかなか弱点を見せないタイプだ。これまでの小さな諍いも、こちらに相談せず、独断で切り抜けていた。
 潮はどこのグループにも属さないと明言しているため、一人を貫いていると言えるが、それでも、友達が孤軍奮闘している話を聞くのは辛かった。だから、潮が誰でもない自分へ報復を頼んできたことが嬉しく、不謹慎だが、そのきっかけを作った若葉には感謝していた。
「若葉ちゃん、どんな子かなー」
 写メくらい送れ、と何度か言ったことがある。潮はそのたびに、「嫌だ」と拒否をした。潮はあの事件以降、若葉をこの街付近へは連れてこなかった。それだけ若葉の傷が深いということだ。今日はこの後、潮の家へ行き、彼の両親とも会うと聞いていた。
「籍、入れちゃうとか言うのかなー」
 潮は来年、入試がある。おそらく合格するだろうと言われているらしい。二人の仲は両家公認だから、このまま学生婚もあり得る。優が一人、想像の世界に浸っていると、店員の声が聞こえた。
 出入口へ視線を向けると、精悍な顔立ちをした潮がこちらへ向かってくる。その隣には「若葉ちゃん」がいた。一瞬、違和感があったものの、二人は手をつないでおり、さらにおそろいで色違いのセーターを着ていたため、優はその違和感を打ち消した。
 潮がダークブルーで、若葉がオフホワイトだ。手編みと分かるそれを凝視すると、「よう」と向かいに座った潮が、彼自身のセーターへ視線を落とす。
「あぁ、これは若葉のおばあちゃんが編んだんだ」
 優は言葉なく頷く。若葉を見ると、「若葉、何回か話したことあるけど、小野原優だ。優は俺より二歳上だから、おまえからすると三つ上か」と紹介を始める。
「あ、あの、はじめまして。奥村若葉です」
 ハスキーな声だな、くらいにしか思わなかった。目の前の若葉は、顔じたいは小さいが、パーツ一つ一つが大きくて愛らしい。笑みを浮かべるとえくぼができた。
「うーちゃん、何、飲む?」
 同じようにドリンクバーを頼んだ若葉は、気の利く子らしく、潮の分まで飲み物を入れにいく。
「うーちゃんだって! おいおい、すげぇ可愛いな? おまえにはもったいない」
 優は正直な感想を言いながら、ドリンクバーの前で順番に飲み物を眺めている若葉を見た。スリムなせいか、胸が小さいのか、少し線に柔らかさがない気がする。だが、ベリーショートの清潔感あふれる髪や健康的な小麦色の若葉は本当に可愛い。
「おまえが写メ嫌がったの納得。独占欲の強い奴め」
 潮は終始、笑みを浮かべているが、若葉が両手で一つのコーヒーカップを持って、そろそろと歩き出した瞬間、立ち上がった。何だろう、と思って観察すると、若葉がつまずくタイミングを見越して、潮がカップを取り上げ、空いた手で体を支えた。
「うわー」
 見ているこちらが恥ずかしい。頬を染めた若葉が戻り、潮はテーブルへコーヒーを置くと、若葉のために飲み物を取りにいった。
「あー、二人とも幸せそうだな」
 もう冷めているコーヒーを口に含んだところで、若葉がにっこりと笑った。
「はい。俺、うーちゃんと一緒にいられるだけで幸せでっ、わ、ゆ、優さん!」
 優は喉まで入ったコーヒーを気管支のほうへ詰めた。笑いながら戻ってきた潮は確信犯だろう。さすがに若葉の前では、「若葉ちゃん、男だったのか!」とは言えず、涙を流しながらむせた。その間も肩を寄せ合い、仲睦まじい二人を見て、ほんの少し、恋がしたいと思ったことは潮には内緒だ。

番外編15 番外編17(潮視点)

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